マッチボックス製造編

男の子であれば誰もが大好きなミニカーは、どういう現場でどうやって作られているのだろうか?前回のクルマの絵本で紹介した「Mike and The Modelmakers」の内容からマッチボックスを例に(レズニー社のマッチボックスだけではちょっと古いので、最新の情報も絡めながら)ミニカーの製作過程を勉強してみようと思う。

まず基本知識として、ミニカーは一般にダイカストあるいはダイキャスト(die casting)と言われる金型鋳造法で作られる。伝統工芸品である南部鉄器に代表されるように一回で壊される砂型による鋳造法とは異なり、高い寸法精度の鋳物を短時間に何度も繰り返し大量に生産することができるダイカストはミニカーなどの製造に適している[1]。簡単に言えば、雄型(凸)と呼ばれる金型と雌型(凹)と呼ばれる金型を重ねて、その隙間に圧力をかけて溶かした金属を流し込むことによって鋳物(形)が出来上がるという仕組みである[2]。マッチボックスもトミカもみなこのダイカスト製ミニカーである。勿論ミニカーだけではなく複雑で多種多様な形状の部品を要する本物の自動車用部品の製造にも用いられている[3]。

レズニー社の工場と通勤用の青いバス
レズニー社の工場と通勤用の青いバス(「Mike and The Modelmakers」より)

それでは絵本に沿ってマッチボックスの製造現場を見てみよう。レズニー社の本社工場は、ロンドン郊外のハックニー東9番地Lee Conservancy Roadにあった。そこには巨大な14もの工場があり、1日100万個以上のマッチボックスが生産されていた。これは当時のデトロイトの自動車生産台数よりも多い。絵本にも描かれているように巨大な工場には青い2階建てバスが乗り入れていた。これはレズニー社が所有していたプライベートバスで、60年代から70年代にかけて工場と郊外を結ぶ従業員の通勤用バスとして利用されていた[4]。車体側面には大きく“MATCHBOX”TOYSと書かれていたことから、会社の宣伝カーとしての役割も担っていたのだろう。

実際のレズニー社工場(当時は従業員が5500人くらいいたらしい[18]) 実際のRLH社製通勤用青バス[4]
(左)実際のレズニー社工場(当時は従業員が5500人くらいいたらしい[18])(右)実際のRLH社製通勤用青バス[4]

ちなみにトミカを製造していたトミー社(現タカラトミー社、前身はトミー工業)は、‘70年にトミカの販売を開始したが、発売当初から国内生産が追いつかず、香港で委託生産した「香港トミカ」が存在した。ただ粗悪な品質ですぐに生産中止となったため今ではプレミアムの付く貴重品となっている。’94年から中国生産が開始され、‘99年で国内生産は終了となる。現在市場に出回っているトミカの多くは中国製だと思ってよい。さらに人件費を抑えるため2009年からベトナムでの生産が開始、一部タイでも生産されている。これからのトミカはメイドイン・チャイナからメイドイン・ヴィエトナムになるようだ[5][6]。

実車の採寸工程
実車の採寸工程(「Mike and The Modelmakers」より)

次にミニカー製作の第1ステップ。まず実車の写真から手作りのモデルを作って、“マッチボックス”シリーズにするか否かの経営判断が行われる。モデルにすると決まってからは、実車の正確な情報を得るために専門家が世界中を駆け巡る。170項目の寸法を測ったり何十枚もの写真が撮られたりする。まだ世に出ていない車の情報も自動車会社から提供されたり、本家よりも早く車を作ってしまうこともあったようだ。“マッチボックス”シリーズに選ばれるということは自動車会社にとってはブランド力、あるいはクルマそのものの魅力が認められた一種のステータスだったと思うし、レズニー社にとっても最新の商品に関する正確な情報が得られるメリットがある。今でもトミカは自動車メーカーの監修を受けており、相互依存の関係性を保っているそうだ[7]。

金型原型の製作工程
金型原型の製作工程(「Mike and The Modelmakers」より)

次の工程では約1ヶ月をかけて詳細な図面に落とされて、販売されるミニカーの4倍の大きさ(12インチ)の樹脂モデルが熟練工によって図面どおりに忠実に作られる。モデルのプロポーションを決める最も重要な工程、原型製作である。この製作に3ヶ月を要すると絵本には書かれている。その職人が作った樹脂モデルを基に樹脂製の鋳型、雄型と言われる金型の原型が作られる。

最新の工程においても原型製作の重要性は変わらない。原型師によって図面から落とされた1.5~2倍のサイズのエポキシ樹脂性の彫刻原型が製作される。この金型原型と図面を基に、金型の雄型と雌型がエポキシ樹脂で試作される。このときに雄型と雌型を組み合わせたときのクリアランスがチェックされる。完成した金型と図面を基に、銅製の金型原型(雄型)とスチールの塊に彫りを入れる雌型が製作される。現在のダイカストモデルは非常に複雑な形状をしているため、単純に上下二分割の型では製作できないものが多く、ほとんどの金型が上下前後左右と6個の金型を組み合わせて作られているそうだ[8]。

パンタグラフ彫刻機 ミニカー製作の命、金型
(左)パンタグラフ彫刻機(右)ミニカー製作の命、金型(いずれも「Mike and The Modelmakers」より)

マッチボックにおいても金型は注意深く分割され、パンタグラフ彫刻機[17]と呼ばれる工作機械を使って原型を基に機械的に4分の1に縮小した“マッチボックス”サイズに特殊な硬い鋼材を削って作られていた。6ヵ月後にダイカスト用の最終金型が完成する。金型はミニカーの命と呼ばれるくらいだから宇宙ロケット並みに十分慎重に注意深く作られていて、300個以上のパーツに分かれていた。金型には湯(溶融した金属)を流し込むための流路や、湯が溢れ出たときの流路も考慮して設計しなければならない。今でこそCADを使ったコンピュータ設計が行われているが、CADなどなかった40年前の金型設計・製作は非常に難しい工程であったに違いない。

現在の金型はコンピュータで管理された自動彫刻機で切削されている。とはいえ細かい造形は作業員による目視加工である。ドリルで彫れないさらに細かな部分は放電加工を施す。銅の金型に超高圧の電気を流し、放電している状態で銅の金型を押し付けてスチールを溶かすことで雌型が彫られるのだそうだ[9]。

亜鉛地金を溶かしているところ
亜鉛地金を溶かしているところ(「Mike and The Modelmakers」より)

さてミニカーは多くの部品と材料から出来ている。その中でも亜鉛は最も重要である。主にノルウェイやオーストラリア、カナダから輸入された100トンもの亜鉛は、荷を積んだ荷船が定期的にロンドンの船着場から工場の反対側に沿って流れる運河を遡上してレズニー社の鋳造所まで運搬された。亜鉛の地金の重さは1トンもあった。1回に6トンの亜鉛が溶融炉で溶かされて、マグネシウムやアルミニウムを加える前にまず鉛が除去される。マグネシウムやアルミニウムなどの混合物は、モデルの強度を上げるのに使われる。この合金を摂氏430度で溶融させるのに3時間半もかかった。溶けた合金をトレイに注いで、それが冷めると約40ポンド(約18kg)の白いチョコレート棒のような亜鉛合金の延べ棒になる。この小さい延べ棒と鋳造工程で余った金属が溶鉱炉の中で溶かされる。

[10]によれば、ミニカーのボディに亜鉛合金ダイカストが使われている理由は、鋳造しやすい機械的性質や防錆性などに加え、タイヤの材質がプラスチック製であることから、ある程度車体に重量がないとタイヤが空回りしてしまうので、プラスチックに比べ比重が重い亜鉛合金を使っていること、各部品を組み合わせて固定する場合、ボディに一体成型される「ボス」(円柱状の柱のような形状のこと)の先端をハンドプレスで押しつぶして固定するのに加工性が良いこと、塗料の定着が良いことなどが挙げられるようだ。

ダイカストマシンに湯を注ぐところ実際の工場内の自動ダイカストマシン[18]
自動ダイカストマシンなどレズニー社の製造機械装置の大半はJack Odell(「“MATCHBOX” COLLECTOR’S CATALOG U.S.A.EDITION 1969」参照)が設計していた[18]

溶かされた亜鉛合金は溶鉱炉から取り出され、ダイカストマシンの背面に注がれる。それからまだ非常に熱いうちに、溶融金属が金型に自動的に注入される。4秒ごとに金型(雄型)が開いて、新しいマッチボックスの部品が生まれる[2]。出来上がった鋳物の不必要な部分(バリ)は、金型の中を湯が流れた通り道(バイパス)を示している。このバリ部分はモデルから切り離されるのだが、これにはじゃがいもの皮むき機のような大きなドラムの中でk回して、部品どおしをぶつけることによって取り除かれる。ドラム1つに6千個の部品が15分間回転させられる。それから不要部分が捨てられる。部品の鋳物と不要な金属は500人の女性工員によって選別され、1日で5,000ものクッキー缶(とても軽く、経済的で、200もの構成部品を見つけやすく、入れておくのに便利な形の容器だという理由で使われていた)にそれらの部品が詰め込まれる。残りの金属は再び溶かすため、ベルトコンベアシステムによって鋳造所へ戻される。

ダイカストマシンから取り出されたパーツ(湯の流路がバリとして残っている) 部品のバリを取る機械
(左)ダイカストマシンから取り出されたパーツ(湯の流路がバリとして残っている)(右)部品のバリを取る機械(いずれも「Mike and The Modelmakers」より)

現在の鋳造工程については[11][12]を参照いただきたいが、モデルの仕上がりの美しさはこのバイパスをいかに上手く作るのかに左右されるのだそうだ。マッチボックスのバリ取りはかなり大胆な手法を取っていたが、[12]によれば切断機や研磨機などを使って丁寧に手作業で行っているようだ。もっともこれは比較的高価な京商ダイカストミニカーの事例なので、もっと量販モデルのトミカなどはマッチボックスと同じような方法を採っているのかもしれない。

塗装機械実際に塗装しているところ
(左)塗装機械(「Mike and The Modelmakers」より)(右)実際に塗装しているところ

次は塗装工程だ。塗装の前に脱脂(表面に付着した油を洗い落とすこと)が施される。脱脂装置はちょうど最新の洗車機のように動く。4分間で車体を洗い乾かして、上塗り、さらに塗装の上塗りのための準備をする。1週間に2,000万個の部品が、鉛フリーの3,000ガロン(約13,600リットル)の塗料で塗装された。これはクイーン・エリザベスⅡ世号を1年に4度塗装するのに十分な量なのだそうだ。どのモデルも3度塗りして、華氏300度(149℃)で8分間焼き付けられた。塗装機械はとても巨大で、6,000個の車体が1度にその機械の中を移動する。この特別な機械を開発するのに2年間を要したのだそうだ(これも又レズニー社内製だった訳だ)。現在の塗装工程は[13]を参照されたし。

ホイールにタイヤを付ける機械
Jack Odellによって開発されたホイールにタイヤを付ける特別な機械[18]

タイヤ、窓、内装、ハンドルはプラスチックで作られている。毎週5,000万個の樹脂製部品が作られ、これを作るのに30トンというとてつもない量のプラスチックが使われた。1週間に何百万個のミニカーを生産するには、少なくとも2,200万個のホイールを作らなければならなかった。80個のホイールが12秒毎に作られた。プラスチックの貯蔵庫には、9種類、47色もある100トンのプラスチックが保管されていた。レズニー社はホイールにタイヤを付ける特別な機械も自前で開発していた。2秒間で7,000個のホイールに7,000個のタイヤを付けるような機械である。ホイールには軸が必要だが、レズニー社は軸を作るのに1日に60マイル(100km弱)の長さ、1週間で10トンの重さのワイヤを使っていた。

マッチボックスのデカール貼り工程[18]
マッチボックスのデカール貼り工程[18]

[14]によれば現在のプラスチック樹脂製部品も金型で製作される。原材料であるプラスチックのビーズを高温で溶かして金型内に注入して成型する。樹脂ビーズは色指定が出来て、成型するパーツの色によって使い分けられる。現在はスモークガラスも再現できるのだそうだ。また絵本には記載がなかったが、文字やロゴマークなどはどう再現されるのか。10年くらい前まではプラモデルでお馴染みのデカール(水転写シール)で再現されていたが、最新技術は「タンポ印刷(パッド印刷)」というものらしい(詳細は[15]参照)。この技術によって細かい文字などが緻密に再現できるようになり、剥がれなどの心配もなく耐久性も飛躍的にアップした。へえーっと思った方は家にある最新のミニカーを眺めてみると良い。

マッチボックの組立てライン
日本のように工員が作業着を着ずに普段着で作業しているところが違和感あるね。

そして最後の組立工程である。全ての部品がこの組立ラインで一緒になり、1,000本の迅速な指使いによって、正しい時間で正確な位置へ部品は組み付けられた。各工員はまるで本当の自動車工場ラインのように自分の担当の部品を組み付けていった。1秒間に11個のミニカーが組立ラインで生産された。組立工程は今も昔も熟練した作業員の手ですばやく組み立てられているようだ[16]。

ミニカーを”マッチ箱”に詰める工程
ミニカーを”マッチ箱”に詰める工程(「Mike and The Modelmakers」より)

モデルが完成すると搬送の準備だ。あのマッチ箱サイズの箱に包装する準備をする。各包装機械が1日に4万個のマッチボックスを包装した。自動的に蓋の開いた“マッチ箱“が作られて、女性工員が手際のよくミニカーを箱の中に入れる。すると瞬く間に自動的に蓋が閉じられて包装係に送られると、それらを1ダースごとに一緒に包装する。梱包されたミニカーは貯蔵庫にやってきて、ここでそれらは分別され発送係に送られる。ここでマッチボックスで一杯の小さな箱を大きな箱に詰める。重さを計られて、重量が外側に記載される。工場の最後で大きなコンテナトラックが口を開けて待っている。それぞれの車両に40万個のミニカーが満たされている。これらが日本を含む世界130カ国に輸出されていたのだ。

Jack Odell
Jack Odell

息子に譲った古いマッチボックスのミニカーは、本物の自動車製造に負けず劣らずスケールの大きい、ダイナミックな製造現場で作られていたんだと絵本「Mike and The Modelmakers」は教えてくれる。クルマの勉強というよりは生産技術、工作機械の勉強になった。特に何でも自前で製造機械を設計したJack Odellの天才ぶりには驚かされる。レズニーの時代から40年以上も経った現在、ミニカー製造技術も随分進歩したのだろうが、工程そのものに大差はないと思う。この記事を最後まで読まれたご父兄の中には、子どものクリスマスプレゼントにミニカーを考えられている方も多いと思う。こういう大変な作業工程を経て我々の元に届けられたミニカーだということを、プレゼントを渡した後にミニカー好きのお子さんとお話されてみてはいかがだろう。

[参考・引用]
[1]ダイカスト、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%83%88
[2]ダイカストの製法、ダイカストとは?、小林金属株式会社ホームページ、
http://www.kobac-j.co.jp/die_casting/process.html
[3]ダイカストとは?、社団法人日本ダイカスト協会ホームページ、
http://www.diecasting.or.jp/diecast/whats_diecast.html
[4]Lesney Toys、RLH Bus Information Centre、
http://www.timebus.co.uk/rlh/seclife/lesney.htm#top
[5]タカラトミー社史・商品史、タカラトミーホームページ、
http://www.takaratomy.co.jp/company/company/history.html
[6]トミカの製造国について教えてください。、Yahoo!知恵袋、
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1252968717
[7]トミカ 二次加工品に関するご注意とお願い、タカラトミーホームページ、
http://www.takaratomy.co.jp/products/tomica/attention.htm
[8]ミニカーはこうして作られる その6、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207344/
[9]ミニカーはこうして作られる その7、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207346/
[10]ミニカーはなぜ亜鉛ダイキャストを使うのか?、yghrk’s idea blog、2011年9月9日、
http://d.hatena.ne.jp/yghrk/20110909/p1
[11]ミニカーはこうして作られる その1、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207338/
[12]ミニカーはこうして作られる その2、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207339/
[13]ミニカーはこうして作られる その3、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207340/
[14]ミニカーはこうして作られる その4、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207342/
[15]パッド印刷のしくみ、ミシマ㈱ホームページ、
http://www.mishima-space.co.jp/mechanism.html
[16]ミニカーはこうして作られる その5、AllAbout、
http://allabout.co.jp/gm/gc/207343/
[17]Pantograph、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Pantograph
[18]Lesney factories & production lines、Nick Jones Moko Lesney Matchbox Toy collection、
http://www.vintagebritishdiecasts.co.uk/factory.htm
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事