手作りエネルギー大全

10年以上も前の本だが「手作りエネルギー大全」(家の光協会編)という今は絶版の本が我が家の本棚にひっそり佇んでいた。個人(家庭)で必要なエネルギー分だけは自分で確保するというスタンスで実践されている事例を集めたユニークな本だ。当時太陽電池やエネルギー自給に興味があったので購入したのだと思う。以後積ん読状態だった。東日本大震災を経験した上で、改めてこの本をパラパラめくっていると、電力は巨大な電力会社から与えられたものを使うという発想から、高知・梼原(ゆすはら)町の例[1]のように地方自治体や企業(工場)、コミュニティー、もっといえば家庭という単位で発電し、自給する方向へ転換すべき時だと強く思うようになった。10年前と違って様々な技術が育ってきた。最近は太陽電池パネルを設置している企業や一般家庭も増えたし、蓄電池としてのポテンシャルもある電気自動車やハイブリット車を家庭用電力源として使うV2H(Vehicle to Home)のアイデアも現実的になってきた[2][3]。ガスラインから燃料電池を使って自家発電するのもエネルギー分散の一つの方策だろう[4]。3.11以降痛い目にあったあらゆる個人、団体、事業主が電力会社への依存体質から脱却を図ろうと模索している。

エネルギー自給の新しい姿?[3]

発電方法においても、特に再生可能エネルギーによる発電技術が改めて見直されている。CO2を排出しないクリーンなエネルギー源として、太陽光発電、風力発電などが以前から注目されてはいたが、不安定な供給源という理由で、どうしてもメインストリームにはなり得なかった。脱炭素という観点からはあくまで主流は原子力、民主政権も前政権以上に原発依存へ傾斜していた。そしてフクシマ。出身学科の関係上、電力会社や原子力関係に従事する学生時代の友知人の顔が浮かぶけれど、個人的には脱原発に賛成する。

先日のマスコミによる福島原発への立ち入り映像を見ても、原子炉そのものの直接被害ではなく、システムに電力を供給する周辺設備にダメージを受けるだけでああいう事態に陥ることがショックだった。女川原発のように最新施設であれば大丈夫という人もいるが、万が一でも原発事故が起これば(※)、あれほど莫大な物理的、人的、精神的エネルギーを消耗させる現実に直面してなお、この極めてリスキーな原発を推進するロジックが私にはわからない。推進意見の大半は経済原理に基づくもの、あるいはもっと闇の部分、軍事的パワーバランスにまで言及するものもあって(ある意味、原発推進の核心であって原発があれば核を持ちたくなる=核保有国は絶対に原発を止められない)、一般市民が素直に求める安全や安心が置き去りされた論調に違和感を覚える。

(※)万に一つかもしれないが、航空機が原発施設の上に墜落するかもしれないし、テロの危険性は明らかに高まってしまった。今回の災害によって、原子炉を破壊せずとも施設への電力供給を断つだけで容易に原発を破壊できることが計らずもテロリストを含む不特定多数の人に周知されてしまった訳だ。これは国家安全保障上、極めて頭の痛い問題である。

太陽光発電、風力発電については効率が悪い、コスト高、不安定、騒音が酷いなど以前からネガティブ意見が多かったのだが、原発と比べてまともに研究開発や投資が行われて来なかった現状を考えれば当然だ。どうして将来の電力の在り方についてもっと”楽しく“ポジティブに、多元的に考えられないのだろう。否定するのは簡単だが、そういう不可能と思われる課題を自ら克服してきたのは今までの日本の技術力ではなかったか(原発の課題も技術力で解決できると言うかもしれないが、繰り返しになるが原発はあまりにもリスクが大きすぎる)。つい最近も、シャープが太陽電池で世界最高の変換効率37%を達成したとのニュースが流れていた[5]。技術は日進月歩である。政府がドイツのように再生可能エネルギーを軸足としたエネルギー国家戦略を打ち出せば、環境技術はもっと早いスピードで進展するはず。原子力より専門的なハードルも低く扱いやすい技術なので、産業の活性化にもつながると思うのだが。

「風レンズ風車」実証実験想像図

そんな中、我が故郷福岡では風力発電や潮流発電などで新しい挑戦が始まっている。九州大学は福岡市と共同で従来の風車に比べて発電効率が数倍高い「風レンズ風車」を博多湾に浮かべ、12月から実用化に向けた実証実験に乗り出す。この風車は風力発電の問題点だった騒音を抑えることも可能らしい[6][7]。博多湾は日本でも有数のヨットクルージングのメッカなので、風が安定的に吹く場所。風力発電にはもってこいの立地条件である。

個人的な話で恐縮だが、開発者の応用力学研究所、大屋裕二教授は、私が学生時代にお世話になった先生。当時は熊本大学の助手をされていて、我々の研究室4年生の実質的な指導教官、兄貴的存在だった。また先生と同じくテニスが大好きで、風工学を修論テーマに選んだ今は亡き親友の仲人でもある。先生が埃を被っていた旧式のゲッチンゲン型風洞を再稼動させて彼と一緒に実験をやっていた頃を懐かしく思い出す。

潮流発電用の水車モデルと平木教授

自然の風は気ままで扱いが難しいが、海流は常に流れていて、四方八方大きな潮の流れを有する日本においては、地熱と並んで有望な自然エネルギー源では?と思っていたら、やはり海流(潮流)発電の研究も進められていた。こちらは九州工業大学の平木講儒准教授らと北九州市の共同研究で、今年度、関門海峡で潮流発電の実証実験に取り組んでいる。1kmにも満たない狭い海峡なので流れも速く、確実にピンポイントで潮流を捉えられるところがこの地域ならではの着想[8][9]。

どちらもあの殿様企業、九州電力のお膝元からの提案というところが面白い。なぜ福岡なのか?と思って調べてみると[10]に面白いデータを見つけた。都道府県別自然エネルギー自給率に関する千葉大と環境NPOの研究報告なのだが、首都圏や関西圏と並んで福岡県は非常に自給率が低い。沖縄も酷いね。沖縄こそと思うのだが・・・。一方、同じ九電管轄の大分県が圧倒的に高い自給率であることも興味深い。再生可能エネルギーの利用があまりにも進んでいない現状に慌てたのか、もう九電(電力会社)に電力の将来ビジョンは描かせないといった官学の反乱なのだろうか。別に九電の肩を持つつもりはないが、原発推進は震災以前の政府の基本方針でもあった訳で、彼らにしてみれば梯子を外されたと苦々しく思っているだろう。厚顔無恥とも思える九電内部でも高い原発依存ではなくて、エネルギー分散をまじめに考えていた人もいたはず。九州は自然エネルギーに恵まれているからだ。現に「風レンズ風車」も九電の受託研究テーマだった時期がある[7]。

さて、いずれも空気や水の流れをいかに旨く掴んで効率よく回すことが肝なので、羽根の形状設計は非常に重要だ。流体屋の腕の見せどころ。またどの発電方法にも共通して大切なのが発電機の効率。以前にTBSの「夢の扉+」という番組を見ていたら、元大工の平松敬司さん(73)が大幅に発電効率を向上させた発電機を考案したという。発電機の効率を妨げるのに『コギングトルク』という現象がある。発電機やモーターの鉄心を手でくるくる回すとコツコツとした抵抗を感じるあれである。これは固定された永久磁石と等間隔に置かれた電磁石が回転することで、くっついたり離れたりすることで起こる。平松さんは自転車用ライトの抵抗(コギングトルク)を減らそうという素人的発想で、4台以上の発電機を1本の軸でつなげ、各台の磁石の位置を軸から見て均等な角度でずらすことで、磁石が引き合う力を相殺させることを発案。京都大学中村武恒准教授(電気工学)の協力も得て、発電機を8台並べると磁力の抵抗がほぼゼロになることが分かった。中村教授もたまたま平松氏の相談に応対したことがきっかけで、当初は誰かが考えて特許を出している既存の技術だと思っていたらしい。しかし調べてみると意外なことに特許は出されていなかった。昔から知られた技術という人もいるが、実際に製品化した人は誰もいない。平松氏の偉いところは、職人らしく実際のモノに仕立てたところ。モノは事実を語る。この連式発電機で効率は8%向上するらしい[11][12]。日本の総発電量に占める原子力発電量の割合は約30%だから[13]、全ての発電機を平松式に置き換えれば原発の4分の1強は減らせる単純計算になる。

平松式発電機の仕組み

いずれの実証研究もまだ始まったばかりだし、実際の効果はまだよくわからない。それなりにコストもかかるだろうから、あくまで期待を込めての事例紹介なのだが、大事なことは脱原発を実現化させるためのアイデアはまだまだ此処に眠っているということ。実現可能性を安易に否定しないで欲しいということだ。前出の大屋先生や平木先生、平松さんのように楽しく電力のことを考える人がどんどん出てくることを期待したい。新しい電力供給のアイデア以前に、エネルギーを使わない生活に変えていくことも大切だけど(夏の省エネ対策を通じて、普段我々がいかに不要なエネルギーを使っているかがよくわかった)、これらの研究事例は我々にとって未来を前向きに考えるための良い刺激となる。

[2012.1.17追記]
1.15放送のTBS「夢の扉+」で上述の大屋先生の研究が紹介されたようだ。残念、見損なった。再放送なんてないよなあ。先生の益々のご活躍、陰ながら応援しております。YK
http://www.tbs.co.jp/yumetobi-plus/backnumber/20120115.html

[参考・引用]
[1]環境モデル都市、梼原町ホームページ、
http://www.town.yusuhara.kochi.jp/kanko/environment/
[2]V2G、V2Hの未来:電気自動車を家庭の蓄電池として使え 日本の乗用車は95%以上“お休み”している、宮田秀明、日経ビジネスONLINE、2010年11月26日、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20101124/217248/
[3]「家とクルマの新しいエネルギー提案」 日産自動車との共同実証試験を実施 ~「SOFC型エネファーム」×「V2H対応 日産リーフ」×「ENEOS EV急速充電ステーション」~、JX日鉱日石エネルギー㈱ニュースリリース、2011年11月3日、
http://www.noe.jx-group.co.jp/newsrelease/2011/20111003_01_0940108.html
[4]エネファームのしくみ、東京ガスホームページ、
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/enefarm/structure.html
[5]シャープ、太陽電池で世界最高の変換効率を達成、MSN産経ニュース、2011年11月4日、
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111104/biz11110417370014-n1.htm
[6]高い発電効率、低騒音=博多湾に新型風車-12月から実証実験・九州大、時事ドットコム、2011年10月24日、
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201110/2011102400027
[7]新エネルギー力学部門風工学分野、九州大学応用力学研究所、
http://www.riam.kyushu-u.ac.jp/windeng/index.php
[8]関門海峡利用し潮流発電機 北九州市が開発へ、朝日新聞、2011年5月25日、
http://www.asahi.com/national/update/0525/SEB201105250009.html
[9]環境都市への挑戦 低炭素社会へ(8)、マイタウン福岡・北九州、asahi.com、2011年5月11日、
http://mytown.asahi.com/fukuoka/news.php?k_id=41000761105310001
[10]「エネルギー永続地帯」2011年版試算結果(速報版)の公表について、Sustainable Zone、
http://sustainable-zone.org/docs/111017-sustainable-zone-2011-press-release2.pdf
[11]元大工の平松敬司「夢の扉」に!発電効率8%向上の手回し式の発電機にオファーが殺到!、Webと人のアマモ場、
http://www.amamoba.com/setuyaku/temawashi-hatuden.html
[12]磁力抵抗「ゼロ」の発電機 草津の男性が発明、京都新聞、2011年05月31日、
http://www.kyoto-np.co.jp/shigatop/article/20110531000016
[13]【第214-1-6】発電電力量の推移(一般電気事業用)、エネルギー白書2010、
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010energyhtml/2-1-4.html
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