Mike and the Modelmakers

工場見学がブームなのだそうだ。[1]によれば、景気の低迷もあってレジャースポットとして近場でお手軽感があること、しかも“本物の仕事場”を見られることも得難い魅力となっている。無駄のない機械や人の動き、工場内のにおいや音など五感で現場の活気を感じ取ることで、子どもたちを勉強などに意欲的に取り組ませる契機になるということらしい。会社にとっても食品や建築業界における偽装問題などで消費者の不信感が高まる中、製造の現場を情報公開することは、消費者や地域に安心感を与えるメリットがあるようだ。そんな工場見学を題材にした絵本が、今回紹介する”Mike and The Modelmakers”(Miraslav Sasek・作、MATCHBOX)である。しかも、その工場とは前回のクルマ絵本で紹介した”マッチボックス”の巨大なミニカー工場である。世界の大都市めぐりがテーマの”This is”シリーズで有名な、チェコの絵本作家、ミロスラフ・サセックの作品であることも、非常に興味深い絵本となっている。

いくら工場見学がブームだといっても、本書の初版である約40年前はせいぜい学校の社会科の見学先であった以外は、それほど一般的に興味を持たれる対象ではなかったはず。しかもその工場が当時の子どもたち、特にクルマ好きの少年らにはポピュラーだったマッチボックスの工場であるということで、かなり読者が限定されるニッチな絵本だ。それが証拠にサセックの”This is”シリーズは和訳もされ、現在でも普通に手に入るのだが、本書に関してはそのマニアック性から翻訳もされていないし、原書もあまり(古本)市場に出回っていない。たぶん絵本に詳しい人でも、サセックがこのような作品を残していたことはあまり知られていないのではないだろうか。でもクルマの絵本を蒐集するマッチボックス世代の私にとっては絶対にはずせない絵本である。

1、2年前にこの絵本の存在を知ってからは、どうしてもクルマノエホン蔵書に加えたい気になる一冊となった。ネットサーフィンで古本を見つけても1万円以上もして、とても気軽に買えない稀覯本であった。最近改めて古書サイトを覗くと、洋書古本で有名なAbeBOOKSで程度の良いものがshipping料も含めてUS$23。現在の為替レートだと1700円程度。この円高を有効に活かさない手はないとクリックボタンをポチっと。で届いたのは新品同様のきれいな絵本でひと安心。洋書購入は今がチャンスです。

Mikeとお父さん(”Mike and The Modelmakers”より)

さて本書の内容である。比較的わかりやすい英語で話は進められる。アメリカ人のマイク(Mike)君がお父さんと英国旅行へ出かけ、そこで(当時の)世界最大の”自動車”メーカー、レズニー社の“マッチボックス”工場を見学することになる。英国旅行というだけでも大喜びのマイクにとって、工場見学は父からのサプライズプレゼントであった。そして見学を終えたマイクが、友達のベン(Ben)に工場の様子を詳しく手紙に書くという設定がこの絵本のプロットとなっている。詳しい内容は、次回に改めて紹介することにする。本書を題材に1970年当時のミニカーの製造過程、そして現在のミニカーがどのように作られているか勉強したいと思う。

本書が出版された1970年といえば、前年に虎の子の北米市場でマッチボックスの販売が大幅に落ち込んだ年(「“MATCHBOX” COLLECTOR’S CATALOG U.S.A.EDITION 1969」参照)。ホットウィールの台頭でレズニー社も業績回復のために様々な施策を打ち出したに違いない。恐らくその一つがこの絵本だったのだ。本書は出版元がMATCHBOXとなっていて、レズニー社の企業宣伝の一環として、サセックに絵本の制作を依頼したものと思われる。したがって実に詳細に開発及び生産現場の内実が描かれている。この販促本がどれほど功を奏したかどうかはわからないが、商品ブランド“マッチボックス”こそ残ったものの、本書の出版から13年後に経営破綻したレズニー社を知る上で、今では非常に資料的価値が高い絵本となった。

Miroslav Sasek

作者のミロスラフ・サセック(Miroslav Sasek)は、1916年、チェコスロヴァキアのプラハに生まれる。絵本作家、イラストレーターとして著名。プラハで建築を、パリで芸術を学び、その後ドイツのミュンヘンに移住。1959年に発行された子どものための旅行絵本『This is Paris』は、そのデザイン性の高さで、子どものみならず大人までも魅了。世界の都市を旅しながら描かれた「This is …」シリーズは、18冊にのぼる。『This is London』で、ニューヨーク・タイムズ選定最優秀絵本賞(1959年)を、 『This is New York』で、ニューヨーク・タイムズ誌選定最優秀絵本賞(1960年)、アメリカ青少年クラブ児童文学最優秀賞(1961年)を受賞。1980年、LESNEY-MATCHBOXの末路を知ることなくドイツのミュンヘンにて永眠。享年63歳[2]。

資料としての価値を差し引いても、やはりサセックのイラストのすばらしさは「This is」に勝るとも劣らない魅力的な一冊である。ある意味「This is」シリーズの別冊ともいえる。アート本としても一級品。

入手しにくい絵本なので、全文を読んでみたい方は以下のブログを参照されたし。
http://airforceamazons.blogspot.com/2011/05/story-of-how-matchbox-models-are-made.html

MATCHBOX No.76?(”Mike and The Modelmakers”より)

[参考・引用]
[1]工場見学なぜブーム? 身近で手軽、知的好奇心も刺激
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO13153600Q0A820C1W02100/
[2]ミロスラフ・サセックの絵本~ポップでおしゃれなイラスト、旅する絵本作家~、
http://www.geocities.jp/ayagonmail/books/ehon/sasek.html

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