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“MATCHBOX” COLLECTOR’S CATALOG U.S.A.EDITION 1969  

“MATCHBOX” COLLECTOR’S CATALOG U.S.A.EDITION 1969

先日「ドライビングシート」と「木のおもちゃ」で木製玩具の楽しさを取り上げたが、私が子供の頃のおもちゃといえば、やはりダイキャストのミニカーに尽きる。それもまだトミカが生まれる前、‘50~’60年代に平均的な家庭で少年時代を過ごしたご同輩にとってミニカーといえば英国製、レズニー社の“MATCHBOX”シリーズだった。今回のクルマの絵本は、そのマッチボックスのカタログ「“MATCHBOX” COLLECTOR’S CATALOG U.S.A.EDITION 1969」を紹介する。この1969年版が実はマッチボックスの歴史において大きな意味を持つ重要なカタログであることを後述する。

左:Rodney Smith、右:Leslie Smith[10]
左:Rodney Smith、右:Leslie Smith[10]

マッチ箱に入るくらいの小さなミニチュアカーを作るというアイデアから生まれた“MATCHBOX”シリーズで大成功を収めた英国レズニー(Lesney)社は、1947年に長年の友人であったダイキャスト会社に勤めるロドニー・スミス(Rodney Smith)と輸出入代理店の仕事をしていたレスリー・スミス(Leslie Smith)という2人のスミス氏が立ち上げた。LeslieとRodneyでLesney。会社の名前なんて案外単純なものだ。やがて彼らのパートナーにダイキャスト用金型に精通したエンジニア、ジャック・オデル(Jack Odell)が加わり、経理はレスリー、金型製作がジャック、実際の鋳造がロドニーという分担で会社経営のスタイルは決まった。

左:Jack Odell、右:Leslie Smith[11]
左:Jack Odell、右:Leslie Smith[11]

当初の経営は順風満帆とはいかなかったが、たまたま請け負った玩具部品の製造から玩具製作を思いついた。ミニチュアカーでは老舗のディンギーを真似てほぼ同一のスケールで値段を下げて販売した。さらにサイズを小さくしたエリザベス女王の「戴冠式用馬車」のミニカーがヒットしたため、“MATCHBOX”サイズの小さなミニチュアカーを作ることを決めた。1947~53年までの初期レズニー製品の中からモデルを選び、1953年11月にレズニー社の最初の“1-75シリーズ”を販売する。“1-75シリーズ”とは、あらかじめ75台の販売枠を決め、その枠内で新製品と生産中止品とを入れ替えるという方法である。この販売枠方式は当時としては画期的な事で、現在でもトミカやチョロQなどもこの方式を取り入れている[2]。最初の4モデルは全く売れなかった。ディンギーのような大きなモデルに対して利益幅が小さいために小売店が扱うのを渋ったためである。しかし1953年のクリスマスが終わると、大きなスケールモデルは高くて買えない子どもたちが小遣いで手の届くマッチボックスに目を付ける。こうしてマッチボックス人気がじわじわと広がった。

Small Coronation Coach
(上写真)”MATCHBOX”シリーズ誕生の契機となった小サイズ「戴冠式用馬車(Coronation Coach)」ミニカー、100万個以上が生産された[9]

マッチボックスが人気を博したのはその価格の安さだけではなく、細部にわたるリアル感と品質の良さである。私が息子に譲った40年以上前のモデルはチップ(塗装剥げ)だらけでもはや鑑賞に堪え得るものではないが、完品であれば現在のトミカと比較しても決してひけをとらない完成度の高さである。1960年までにレズニー社は品質を徹底させ、全てのモデルのウィンドウはプラスティック製、ホイールも金属からプラスチック製になった。このカタログに掲載され、私も遊んでいたモデルはこの頃のものである。

Hot Wheels オリジナル広告(1968) Hot Wheels Actionの広告(1968)
左:Hot Wheels オリジナル広告(1968)、右:Hot Wheels オリジナル広告(1968)

マッチボックスの人気は全世界に広がりこの日本も例外ではなかった。私もデパートに行くと真っ先に向かったのがおもちゃ売り場の中のマッチボックスのコーナーだった。特に北米は重要なマーケット。1960年代の終わりにかけて北米向けに毎週500万個の製品が生産された。これはマッチボックス総販売量の6割を占めた。ところが、このカタログが出た1969年のマッチボックスの売上予想は2800万ドルであったにも関わらず前年比10%減だった[3]。北米市場へ進出したレズニー社の行く手を阻んだのは、1968年に登場したマテル社(Mattel)の“ホットウィール(Hot Wheels)”であった。実車再現とは異なるオリジナルデザイン、メタリック塗装、クロームめっきのエンジンにホイール、そして現在のミニカーには当たり前の転がり抵抗の少ない高速タイプのホイール。「Let’s Study」でルーリー少年が描く「カッコイイ」車のイメージである。アメリカの少年たちがマッチボックスからホットウィールに興味が移るのに時間はかからなかった。マテル社の宙返りループやジャンプ台を用意したプラスチック製のサーキットトラックなどの登場もミニカーのスピード・ホイール化に拍車をかけた。

Superfast[1]
Superfast[1]

マッチボックスもついに1970年から高速ホイールを履いた“スーパーファースト(Superfast)・シリーズ”を登場させるが、このシリーズ投入を以ってコレクション・アイテムとしてのマッチボックスの終焉と言われる。高速ホイール仕様のトミカが1970年に誕生、日本においてもライバル登場である。“スーパーファースト”のホットウィールを模した派手な塗装や常識外れのデザインは旧来のファンから不評を買い、途中から60年代の実車に忠実な路線に戻っていった。一貫性を失った迷走企業の衰退は早い。結局経営は好転せずに、1983年レズニー社は破綻する。いくつかの買収劇を経て、1997年からはかつてのライバル企業マテル社のミニカーブランドの一つとなる。

こうして歴史を紐解くと、今回紹介するマッチボックスの1969年カタログ、しかもUSA版は重要な意味合いを持つことがわかる。マッチボックスがマッチボックスたる1949年から69年に生産されたレギュラーホイール時代最後の年のカタログであること、そのレギュラーホイールを捨て、高速ホイールに転じるきっかけとなった北米市場用のカタログであることが実に興味深い。

以上のような基礎知識を踏まえて改めて本書(カタログ)を眺めてみたい。ヤフオクで数百円で購入したこのカタログはかなり状態がよく、ほぼ当時のまま。縦11cm×横14cmの小さなカタログの中に75台のミニカーが忠実に描かれている。全編47ページ、箱入りギフトセットも含めて全て手描きのカタログはまさに絵本と呼ぶに相応しい。「世界の名車 絵で見るくるまの文化史」でも紹介したが本物の自動車カタログも昔は全て描画。たかがおもちゃのミニカーごときにも、こんな手間と暇をかけた手描きのカタログを用意するとはなんて優雅な時代だったのだろう。写真にするのは簡単だったに違いないが、あえて絵にこだわったのは、恐らく子どもが見るであろうこのカタログに絵本の役割も担わせたかったのではないだろうか。それが証拠にカタログの最後には“History of the wheel”という車輪の歴史を紹介する数ページの読み物が付いている。

1-75シリーズ(本カタログより)
1-75シリーズ(本カタログより)

1-75シリーズを見てみると、自分が持っていた(息子に譲った)モデルを18台ほど見つけることができた。1箱55セント。‘69年当時はまだ固定相場制で1$=360円だった(こんな時代もあったのだ)から200円弱。今の相場に換算すると、トミカが現在400円もしないくらいだから決してびっくりするほど安かった訳でもない。

Foden Hoveringham Tipper Truck(本カタログより) Racing Car Transporter(上)とCar Transporter(下、本カタログより)
左:Foden Hoveringham Tipper Truck(本カタログより)、右:Racing Car Transporter(上)とCar Transporter(下、本カタログより)

キングサイズモデルにもいくつか保有していたものが見つけられた。Foden Hoveringham Tipper Truck(K-1)とCar Transporter(K-8)は最近まで息子がよく遊んでいた。いずれも私が遊び倒したものなので既にボロボロ状態なのだが、そのオンボロミニカーはやはり息子のお気に入りだった。世代を超えて惹きつける魅力があるのだろう。特にK-1は名作である。Scammel Tipper Truck(K-19)は保存状態がよいので、現在も本棚に大事に飾っている。キングサイズではRacing Car Transporter(K-5)が今でも欲しい素敵なモデルの一つでたまにヤフオクをチェックしている。程度の良いK-5は結構出品されているが、それなりに高価なので未だ手に入れていない。

MOTORWAY(本カタログより)
MOTORWAY(本カタログより)

アクセサリーも充実していて、道路組立てキットの“Build A Road”とか、「ハワイのお土産 その2」で紹介した現MATCHBOXの”Open for Adventure”シリーズの原型と思われるポップアップ式の立体道路マップ“Pop-up Roadways”などが掲載されている。ガソリンスタンドのミニチュアモデル(「ガソリンスタンドのおもちゃ」参照)やジグソーパズルなどの商品も珍しい。中でも “Motorway”は珍品で、見た目はスロットカーセットなのだが、どのマッチボックス・ミニカーでも特別な付属品によって2種類の速度調整ができると書いてある。しかし通常のスロットカーのように駆動部品(モーターなど)が車体に内臓されていないただのミニカーがどうして動くのかが謎だった。調べてみると、2本の長いスプリングがスロット(溝)内をモーターによってぐるぐる回るようになっている。ミニカーの底部に付属のプラスチック・ピンを貼り付け、このピンをスプリングに引っ掛けることによってスロットに沿ってミニカーが動くという仕組みらしい。従ってレーンの異なるミニカー同志は競争することができるが、同一レーン上ではミニカーは一定距離を保って等速で動くことになる[4]。手持ちの安価なミニカーが高価なスロットカーに化けるという簡易版スロットカーを提供したかったらしい。



また、クラッシックカーモデル専用の“Models of Yesteryear”というシリーズがあったことを初めて知った。Rolls-Royce Silver Ghost(Y-15)のモデルもある。こちらはオールドカーファンにとってはたまらないシリーズだと思うが、何よりこのカタログに描かれた各車紹介の絵画が美しい。

Models of Yesteryear(本カタログより)
Models of Yesteryear(本カタログより)

このカタログを見てしまうと、再びマッチボックスのミニカーを集めたくなった。ただ大人買いできるほど給料ももらっていないし、せめてこのカタログを何度も眺めることで、コレクションした気分に浸ることにしよう。次回はそのマッチボックスがどのように作られているのかを勉強できる素敵な絵本を紹介したいと思う。

[参考・引用]
[1]巻頭特集:レズニー時代のマッチボックス Lesney’s MATCHBOX “Old Faithful Toy Cars”、model cars、Vol.77、2002年10月号、ネコパブリッシング
[2]マッチボックスの歴史、
http://page.freett.com/HOBBY/minicar/matchbox/matchboxtop.htm
[3]マッチボックス(ミニカー)、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9_(%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%82%AB%E3%83%BC)
[4]Matchbox International Collectors Association、darkens.net.nz、
http://www.darkens.net.nz/ephemera.htm
[5]マッチボックスのBOX、Nostalgic Patrol Cars、
http://2nd.geocities.jp/nostalgicpc/boxmatchbox.html
[6]マッチボックスのアメリカン・ポリス、Nostalgic Patrol Cars、
http://homepage3.nifty.com/nostalgic/matchboxpolice.html
[7]マッチボックス 1963 2d、Nostalgic Patrol Cars、
http://www.nns.ne.jp/pri/jlb/tearoom_minicar6.htm
[8]珍玩堂主人 ムスタング編 前編 [マッチボックス]、生きながらミニカーに葬られ、2006年11月18日、
http://nekozakana.blog.so-net.ne.jp/2006-11-18
[9]珍玩堂主人 マッチボックスの馬車編 その0 [マッチボックス] [編集]]、生きながらミニカーに葬られ、2006年7月28日、
http://nekozakana.blog.so-net.ne.jp/2006-07-28
[10]History of Lesney、Matchbox Memories、
http://www.matchboxmemories.com/
[11]Lesney factories & production lines、Nick Jones Moko Lesney Matchbox Toy collection、
http://www.vintagebritishdiecasts.co.uk/factory.htm
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Posted on 2011/10/15 Sat. 12:18 [edit]

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