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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

ラストリゾート  

ラストリゾート

立秋も過ぎたが夏はまだ本番、相変わらずクソ暑い。震災や原発のこともあるし、亜熱帯スコールのような局地的豪雨も続いて、気分も天気も何だかカラッと晴れ渡らない今年の夏であるが、やはり夏といえば海辺のリゾートホテルにでも泊まって、サマーバケーションをエンジョイしたいところだ。でも時間はあっても金がなく、今年も地元で地味に過ごす夏休み。まあ、幸いにベランダから眺められる横須賀港でも見ながら本でも読んで、リゾートへ行った気になるしかない。本日のクルマノエホンは、想像力を失った一人の絵描きが、失ったものを探しに愛車ルノーに乗って辿り着いた1軒の海辺の古いホテルで出会う不思議なお話『ラスト・リゾート』(J.パトリック・ルイス・作、ロベルト・インノチェンティ・絵、青山南・訳、BL出版)を紹介する。原題は“The Last Resort”(J.Patrick Lewis、Roberto Innocenti、Creative Editions)、2003年ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞作品である。

このホテルで、主人公は不思議な泊り客たちに出会う。ホテルの入り口で出会った男の子は「有名なお話たちの世界にようこそ。ここは心にぽっかり穴のあいてしまった人たちのリゾートホテルさ。あなたもきっといいものが見つかるよ。」と謎の言葉をささやく。

砂浜を掘り続ける片足が義足の男(「ラストリゾート」より)
砂浜を掘り続ける片足が義足の男(『ラストリゾート』より)

砂浜を掘り続ける片足が義足の男。
手紙を釣ろうとしている最初に出会った少年。
自分が助けた男と、いつかきっと結婚すると信じている白いドレスの女。
何かを探しているのか、地図のようなものを持っている白いスーツの背の高い男。
誰が何で怪しいのかをつきとめようとしている警視。
複葉機で墜落してきたパイロット。
木の上でヒーローの登場を待っている紳士。
・・・。

これら謎の宿泊客たちの多くは、児童文学の古典にゆかりのある人々(俳優や詩人も登場する)。子どもの頃に文学少年・少女だった方は、恐らくピンとくるだろう。義足の男は『宝島』のジョン・シルバー。少年はマーク・トウェインが生みの親のハックルベリー・フィン、白いドレスの女は人魚姫、背の高い男は『モンテ・クリスト伯爵』で知られる若い船乗り、パリ警視庁のメグレ警視に『星の王子さま』の作者サン=テクジュペリ、『木のぼり男爵』のコジモ、・・・。読書ぎらいだった私でもその名前くらいは知っている有名人ばかりである(『木のぼり男爵』は知らなかった)。

でも、恥ずかしながら『星の王子さま』『人魚姫』以外、まともに読んだことがないので、ちゃんとしたストーリーも知らない。それくらい小生は本を読むことが嫌いな少年だった。特に夏休みの宿題に出される読書感想文は苦痛だった。このことは大人になって大いに後悔することになる。当然知っておくべき基礎知識や教養に欠ける。言葉や語彙に乏しい(日本語も英語も)。そして何よりも「書物は青年時代における道案内であり、成人になってからは娯楽である(”Books are a guide in youth, and an entertainment for age.”by Jeremy Collier)[1]」という言葉が示すように、私は大切な人生における水先案内人を得る多くの機会を失ってきた。

ラストリゾートの宿泊客たち(「ラストリゾート」より)
ラストリゾートの宿泊客たち(『ラストリゾート』より)

したがって、本書に登場する人物たちがどういうバックグラウンドを持っているのか、何を探しにこのホテルに滞在しているのかといったより深いレベルでの読解、鑑賞ができない。ちょっともどかしさを感じるのである。もちろん、そのような基礎知識がなくてもインノチェンティの素晴らしい挿絵を見ながら、十分に楽しめる本ではあるのだが。

というわけで、今年の夏休みは本書に関わる児童文学の古典に親しもうと考えた。今さら人生の道案内でもないだろうし娯楽でもよい、とりあえず本をかき集める。『宝島』『メグレ警視の事件簿』『白鯨』・・・。長編の『ドン・キホーテ』は、岩波少年文庫の簡易版が初心者向けにお奨めのようなので探してみよう。さて『宝島』をさっそく読了。もちろんラム酒を飲みながら。『宝島』は岩波や新潮文庫版もあるのだが、最近老眼で小さな文字が読みずらくなった私にとっては、本のサイズも文字も手ごろな大きさで読みやすい偕成社文庫の完訳版がちょうど良い(岩波少年文庫版のレビュー評価が高いので、翻訳の違いを読み比べてみるもの良いだろう)。五十路間近の私でもワクワクするような物語展開とスピード感あふれる海洋冒険活劇。ジョン・シルバーの圧倒的な存在感。極悪非道な海賊たちの強面の表情や、ジム少年の冒険や決闘シーンをイマジネーションできるのは活字ならではの醍醐味。なんとも稚拙な読書感想文だが、名作は読者年齢を選ばないんだなあと改めて再認識。子どもが読んでも面白いものは、大人が読んでも面白い。

リゾートに行ったつもりで『宝島』を読む
リゾートに行ったつもりで『宝島』を読む

同じ海賊モノ「ONE PIECE」の面白さにはまっている我が家であるが、コミックではない文学の面白さはやはり捨てがたい。「ONE PIECE」や「ハリーポッター」などを読むことは別に悪いことではないと思うが、子供たちには古典の面白さにも気づいて欲しい。なーんて、読書ぎらいの少年だった私が何を言っても説得力はないのだけれど。

さて、本書の登場人物たちがそれぞれ何を見つけてこのリゾート・ホテルを旅立ったかは、本書を是非手にとって感じて欲しい。読者の予備知識、人生経験のレベルで捉え方も様々だろう。答えがないのが、この絵本の魅力でもある。

主人公の愛車ルノー(「ラストリゾート」より) メグレ警視と15CV(「ラストリゾート」より)
(左)主人公の愛車ルノー(『ラストリゾート』より)(右)メグレ警視と15CV(『ラストリゾート』より)

クルマノエホン的な視点からも一言。主人公の絵描きが乗ってきたルノー車は、”La R4 de papa”と同じ‘68年式の赤いキャトル。ヘッドライトとアルミ製グリルが一体になっているのが特徴だ。ホテルへと続く細い道が分岐する幹線道路には2CVやDSなんかもさりげなく描かれているし、メグレ警視の乗ってきたクルマはシトロエン15CVで作者は仏車がお好みのよう。こういう洒落た絵本には確かに仏車がよく似合う。

Roberto Innocenti
Roberto Innocenti
出典:http://literaharturainfantil.blogspot.jp/2011/09/un-ilustrador-unico-roberto-innocenti.html

挿絵を描いたロベルト・インノチェンティは、1940年、フィレンツェ近郊に生まれたイタリアの画家。アニメーション・スタジオで働いたり、ポスターや本、新聞のデザインに携わったりしながら、独学で絵を学ぶ。広告用のグラフィックデザインも手がけている。“Rose Blanche”(1985)と“A Christmas Carol”(1991)でブラティスラバ国際絵本原画展(BIB)金のりんご賞、“Rose Blanche”(1986)でボストングローブ・ホーンブック賞、“The Adventures of Pinocchio”(1988)でケイト・グリーナウェイ賞特別推薦作品を受賞。2008年には国際アンデルセン賞画家賞受賞。本書の受賞歴は冒頭に説明したとおり。

J.Patrick Lewis
J.Patrick Lewis
出典:https://www.poetryfoundation.org/poets/j-patrick-lewis

不思議なお話を書いたJ.パトリック・ルイスは、1942年生まれのアメリカの経済学者。1998年まで経済学の教授をつとめた。また詩人、絵本作家としても活躍し、子どもに向けた作品は50を超える。作品に“Galieo’s Universe”、“Black Cat Bone”、邦訳された絵本作品に『なぞなぞぞくぞく』(文化出版局)、『私たちの青い地球』(みくに出版)、『大地と海あなたと私』(エヌ・ティ・エス)がある。アメリカ、オハイオ州在住。

青山南
青山南
出典:https://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/back36/no32/tokushu32/tokushu01_32.html

訳者の青山南氏は、1949年福島県生まれの翻訳家。早稲田大学大学院修了後、常盤新平らとともに編集委員として月刊誌「ハッピーエンド通信」を刊行。フィリップ・ロスやスコット・フィッツジェラルドなどのアメリカ文学や絵本などの翻訳を手掛けているほか、現代アメリカ文学の紹介者、エッセイストとしても知られている。現在、早稲田大学文化構想学部教授。翻訳絵本には、J.パトリック・ルイスの「なぞなぞぞくぞく」など多数。

海辺のラストリゾート(「ラストリゾート」より)
海辺のラストリゾート(『ラストリゾート』より)

[参考・引用]
[1]JEREMY COLLIER、
http://www.giga-usa.com/quotes/authors/jeremy_collier_a001.htm
[2]Biografia Roberto Innocenti、ZAM、
http://www.zam.it/biografia_Roberto_Innocenti
[3]J.Patrick Lewis Children's Poet & Author、
http://www.jpatricklewis.com/photos.shtml

ラストリゾートラストリゾート
(2009/09)
J.パトリック ルイス

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Posted on 2011/08/11 Thu. 15:00 [edit]

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