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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

あたまにつまった石ころが  

あたまにつまった石ころが

先日の日曜日、小6の娘と2人で鎌倉に出かける。娘の希望で美大予備校で開催されている児童向けの短期集中ゼミに参加するためだ。最近自分の将来の進む方向として、アート系に関心のある長女。周りの同級生の多くが具体的な職業で自分の将来像を語るのに対して(最近の子どもたちは、私の頃と比べて将来のビジョンがしっかり言えるのだ)、何ともはっきりしなかったマイペースの彼女としては大進歩だ。カネもかかるが、いろいろな可能性のある子どもにはできるだけチャンスを与えてあげるのが親の務め。朝の10時から夕方4時までみっちり講義と実技、観賞を行う充実したカリキュラム内容を聞くとパパやママが受けたいくらいだが、メチャメチャ授業は楽しいようである。娘を大船にある学校に預け、父さんはUターンして鎌倉駅周辺を散策。長谷にある絵本屋さんで手に入れた「あたまにつまった石ころが」(キャロル・オーティス・ハースト・文、ジェイムズ・スティーブンソン・絵、千葉茂樹・訳、光村教育図書)を今回は紹介しよう。原題は“Rocks in His Head”(Carol Otis Hurst、James Steavenson、Greenwillow)で、2001年ボストングローブ・ホーンブック賞のノンフィクション部門オナー賞を受賞した作品だ。

syoca
syoca

鎌倉駅を降りて若宮大路を南下し、JR線をくぐってすぐ右側のしかけ絵本専門店「メッゲンドルファー」で物色した後、由比ヶ浜通りに右折。ここの通りには鎌倉で一番好きな古本屋「公文堂書店」、「en route, CHOCOLaT!/ショコラちゃんのおでかけドライブ」で紹介した絵本カフェ「SONG BOOK café」がある。このちょっと先の「らーめんHANABI」が見えたらすぐ右折。鮮やかなマリンブルーの看板が初夏の空に映える「syoca」、最近できたおしゃれな絵本屋である。コンセプトは絵本+本のための家具とある。入って左の壁一面には絵本がゆったりとディスプレイ。10人ほどの家具デザイナーの作品を扱っているとのことで、スタイリッシュな木の本棚や本箱、椅子などの家具、ブックエンドなど本に関係する雑貨も取り扱っている。お値段はそれなりにするのだが、本好きには見ているだけでも楽しい。syoca(書架)とは粋なネーミングである。家が広ければ、集めている絵本たちを見せる収納に工夫したいのだけれどね。

店内はこんな感じ、おっされー!
店内はこんな感じ、おっされー!

ディスプレイされた絵本の数々も、日替わりで換えるらしい。訪ねる度に新しい絵本との出会いがありそうだ。おじゃましたこの日は“石ころ”に関する絵本がコーナーに並べられていた。最近、吉木文平著の古書「鉱物工学」(技報堂)を安く手に入れて、久々に鉱物学の世界に浸っていた資源開発工学科出の私としては「石の絵本!」と興味津々。作画は見覚えのある「ねえ、まだつかないの?」でも紹介したジェイムズ・スティーブンソン。ぱらぱらめくっているとT型フォードの絵が飛び出す。石とクルマでこの絵本を購入しない理由はない。

本書は語り部のお父さんの物語。子ども頃、コレクションにはまるのは世の常。僕も小学生時代は切手やウルトラマン、仮面ライダーの写真カード、牛乳瓶のふた等を一生懸命集めていた。このお父さんは子どものころから石を集めるのが大好きだった。周りの人からは「あいつは、ポケットにも頭の中にも石ころがつまっているのさ」と言われていた。

集めた石ころ(「あたまにつまった石ころが」より)
集めた石ころ(「あたまにつまった石ころが」より)

大人になったら何になりたい?という質問にも、いつも答えは同じ。「何か、石と関係のあることだったら」「石ころじゃ、金にならんぞ」「うん、そうかもね」とマイペースの父。そんな彼も大人になると、祖父の援助を受け故郷のマサチューセッツ州スプリングフィールドでガソリンスタンドを始めた。その店内にも白い棚を作って石ころを並べた。石の種類や採取した場所を書いたラベルも一緒に。

T型フォードと部品(「あたまにつまった石ころが」より)
T型フォードと部品(「あたまにつまった石ころが」より)

当時はT型フォード全盛の時代、誰もが自動車を買えるようになった。父も一台購入して、何度も分解しては組立てて、T型フォードのことならなんでもわかるようになった。とくにかく何事もとことん調べないと気の済まない男だった。父は車の修理がいい商売になると考え、部品を集め始める。やがてスタンドよりも大きな部品の山ができ、周囲の人は「相変わらず、お前さんの頭には石ころがつまっているんだな」とバカにされる。でもこの読みは大当たり。ガラクタ部品が飛ぶように売れた。おかげでガソリンスタンドは大忙しとなった。お客さんと陳列した石の話で盛り上がることもあった。

やがてあの大恐慌に。景気がさらに悪くなると、父は祖父にガソリン・スタンドを任せ、子どもたちをT型フォードに乗せて石ころを探しに行くようになった。じきにガソリンを入れる客も、石ころを見に来る客もいなくなり、家族は引っ越すことになった。ボロ家を見つけ、家の修理に励む父。一か所なおすたびに屋根裏部屋に作ったコレクション棚の石を眺めに行く(ここ僕の一番好きな箇所で、この気持ちものすごくよくわかるなあ)。

父は一生懸命仕事を探し、どんな仕事でも引き受けた。仕事が見つからないときはバスに乗って科学博物館に出かけた。石の展示室で一日中過ごすこともあった。ある日、博物館で彼の目の前に一人の女性が。この博物館のジョンソン館長だった。「何か探しものでも?」「自分のもっている石より、もっといい石を探しているんです」「どのくらい見つかりました?」「10個です」と父。博物館にある何百個の貴重な石を目の前にして。

ジョンソン館長が乗ってきたりっぱな車(「あたまにつまった石ころが」より)
ジョンソン館長が乗ってきたりっぱな車(「あたまにつまった石ころが」より)

父の家の“展示室”に招待された館長(彼女が父を乗せてきたりっぱな車は何だろう?パッカードかな?)はその知識と情熱に打たれたが、学のない父を専門家として雇うことが出来ない。その代わり、彼を博物館の夜間管理人として雇うことになった。熱心に働く父の姿とその知識の豊富さを買われ、やがて彼は博物館の鉱物学部長となった。部長となった父は、博物館の計らいで働きながら大学に通い、ジョンソン館長が退職すると、スプリングフィールド科学博物館の館長となった。そう、彼は作者キャロル・オーティス・ハーストのお父さんで、この物語は彼の実話である。

著者は最後に「父ほど幸福な人生を送った人を、私は他に知りません」と結ぶ。好きなことを仕事にできればこれほど幸せなことはないだろう。でも誰もが好きなことを仕事にできるとは限らない。その前に、本当に自分の好きなことを見つけること、どんなときでもその興味を持ち続けることは大変なことである。

本書は立身出世の物語ではない。ごくごく普通の男の人生である。ただ、彼はずっと好きなこと、興味のあることにこだわり続けた。結果として幸運にも博物館の館長にはなったが、偉くなったことではなく、彼のこのピュアなメンタリティに感動を覚えるのである。たとえ博物館で働いていなくても、貧しくても、石ころ集めは一生続けていたであろう。一切ぶれない彼の生き方に魅せられる。実にすがすがしい気分にしてくれる一冊。自分の好きな仕事が見つからない、自分の好きなことができないので仕事をやめたい、生きることに行き詰った、そんな悩みをもつ人は是非本書を読んでみてごらんなさい。

Carol Otis Hurst
Carol Otis Hurst

作者のキャロル・オーティス・ハーストさんは、もちろん本書の主人公の実の娘さん。1933年、本書の舞台であるマサチューセッツ州スプリングフィールドに生まれる。オハイオ州で教師を務めた後、マサチューセッツ州に戻り、学校図書館の司書となった。創作の傍ら、子どもや教師、図書館員のための児童書のワークショップを主催。児童文学に対して、父の石への情熱に決して劣ることのない思いを寄せる“あたまの中に本がつまった”作家。父親が館長となったスプリングフィールド科学博物館にほど近い、ウェストフィールドに在住していたが、2007年1月、73歳で逝去[1]。

作画のジェイムズ・スティーブンソンさんについては、「ねえ、まだつかないの?」を参照のこと。

さて、syocaで買い物を済ませ、大船まで娘を迎えに戻る。帰りの電車の中で、今日の授業の面白さを生き生きと語る娘に思わず目を細める私。お前もどうやら本当に好きなことが見つかったようだな。


より大きな地図で 鎌倉の絵本屋さん を表示

[参考・引用]
[1]Carol Hurst's Children's Literture Site、
http://www.carolhurst.com/bios/carolbio.html

あたまにつまった石ころがあたまにつまった石ころが
(2002/08)
キャロル・オーティス ハースト

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Posted on 2011/05/25 Wed. 20:43 [edit]

category: picture books about automobile/クルマノエホン

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コメント

ありがとうございました

papayoyoさま、

ご来店ありがとうございました。好きと思う気持ちが何にも勝る原動力になるってことを実感させてくれる絵本ですよね。お嬢さん、好きなことが見つかってよかったですね。

クルマの絵本探してみます!
今後もどうぞよろしくお願いします。
syoca

URL | syoca #-
2011/05/26 14:05 | edit

鎌倉に楽しみがまた一つ

syoca様、

お返事ありがとうございます。
鎌倉で立ち寄るお店がまた一つ増えました。
これからも素敵な絵本、そして家具をご紹介ください。
クルマの絵本、期待しています。

URL | papayoyo #-
2011/05/26 22:43 | edit

以前コメントさせていただきました、熊大出身の川野です。

先日ひょんなことから、金子先生と連絡が取れました。一緒に仕事できそうです。

お暇になったら是非のみに参りましょう。
以下の捨てアドレスへご連絡いただければ幸甚です。

Tetteleeeeee@yahoo.co.jp

URL | 採冶魂! #-
2011/05/28 22:59 | edit

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

 |  #
2011/05/28 23:00 | edit

Re:採冶魂!

ご連絡ありがとうございます!
金子先生とは懐かしいですね。教授は現在北大でしたよね。
先生とお仕事ということは、貴殿は今でも”石ころ”関係にお勤めか?
小生は完全に石の業界からは足を洗っています。
でも「鉱物」とか「岩」「石」といった言葉を聞くと、ものすごく気になります。
なんでこの絵本も無意識に手に取ってしまいました。
性ですかね。

URL | papayoyo #-
2011/05/29 20:06 | edit

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