みさきめぐりのとしょかんバス

先日「3.11絵本プロジェクトいわて」の小型移動図書館“えほんカー”支援について紹介した。当プロジェクトのブログによるとその第1号車が完成したようだ。車両は三菱のミニキャブトラック(たぶん)。マーキングも施され20日からいよいよ動き出す。クルマの絵本にも“走る本棚”である移動図書館に関する絵本がいくつかある。本日紹介するクルマの絵本は「みさきめぐりのとしょかんバス」(松永伊知子・文、梅田俊作・絵、岩崎書店としょかんバス・シリーズⅠ)という実在した移動図書館がモデルの絵本。

舞台は北海道根室。としょかんバス「あすなろ号」は、運転手のクマおじさんと、司書のみっちゃんを乗せて、今日も『ブックモビルの歌』を響かせながら、知床のノサップ(納沙布)岬へ向かう。岬の手前の小学校に着くと、あっという間にバスの中は子どもたちでいっぱいになった。読み終わった本を返して、また新しい本を手にする元気いっぱいの子どもたち。

「みさきめぐりのとしょかんバス」より

ノサップ岬からは北方領土が見える。国後島はクマおじさんの故郷なのだ。岬の小さな港町では、いつものおばあちゃんがやってくる。「なぎのいい日に、うちの父さんと息子は漁にでたまま帰ってこなかった。」とおばあちゃんの悲しい身の上話を聞いてあげる。

浜を出ると、今度は森の奥の炭焼き小屋を訪ねる。小屋のおじさんは「小さい頃に病気で耳が聞こえなくなったうちのかあさんは、本を読むのが好きなんだよ。だから俺も読書家になったのさ。」と照れながら語る。

「あすなろ号」はただ本を届けるだけのバスではないのだ。岬の人たちとの様々なふれあいを与えてくれるコミュニケーションツールなのだ。

移動図書館とは、図書館を利用しにくい地域のために、各地に巡回して図書館のサービスを提供する手段で、自動車や船を利用することが多い。外国では一般に自動車を使うので、英語ではbookmobileという。世界初の移動図書館は19世紀中頃の馬車だといわれている。一方、日本初の移動図書館はかなり遅く、戦後の1948年に高知県立図書館で始められた「自動車文庫」なのだそうだ[1]。その後は自動車や公共交通の普及もあり、図書館やその分館の整備も進んだことで、現在はそのサービスの役割を終えつつある。確かにここ横須賀でも市立中央図書館をはじめ、2地区に分館、子ども図書館が1館あり、我が家もよく利用しているが、移動図書館は私が幼少期を過ごした九州時代も含めて、出会った記憶がない。

モデルとなった「あすなろⅡ」[4]
モデルとなった「あすなろⅡ」[4]

しかし、本書のモデルである根室市図書館の移動図書館「あすなろ号」は今も現役で、歴史もずいぶんと長い。「あすなろ号」が運行を開始したのは昭和50年(1975)。それ以前から市の広報車等を借用して学校巡回(一部地域文庫)を行っていたそうだ。「あすなろ号」の名前は公募で選ばれ、昭和58年(1983)から二代目「あすなろⅡ」、平成11年(1999)からは三代目「あすなろⅢ」、昨年からは大地みらい信金本店新築を記念して寄贈された「大地みらい号・あすなろⅣ」の運行をスタートした[2]。現行車には本書の原画が外装デザインに採用され、根室の小学校等を巡回しているとのこと。

日野リエッセⅡ 29人乗り 三菱ローザ・スーパーロングボディ 34人乗りCX[6]
(左)日野リエッセⅡ 29人乗り(右)三菱ローザ・スーパーロングボディ 34人乗りCX[6]

ベースとなった車両は、初代「あすなろ号」にマツダの26人乗りバス改造車、「あすなろⅡ」に日野の29人乗りバス改造車、「あすなろⅢ」に三菱ローザのスーパーロングボディ34人乗りバス改造車、「大地みらい号・あすなろⅣ」に日野リエッセⅡの29人乗りバス改造車が使用されており、現行車は改造費も含めて約1,300万円もしたそうだ[2]。「3.11絵本プロジェクトいわて」のえほんカーが1台約265万円を想定しているのでかなり高価である。本書の初版は1996年なのでこのモデルは初代「あすなろ号」もしくは「あすなろⅡ」であろう。

あすなろ号の歴史、ベース車両については根室市図書館に情報をいただいた。ここに厚く御礼を申し上げます。さらに詳細を調べたい場合、根室市図書館が発行した『図書館バス30年の記録 あすなろ号の歩み』という資料がある。第3代図書館バスまでの概要等が記載されているそうだ。興味のある方は参考にされたい。

先日亡くなった児玉清さんは読書家としても有名であったが、彼は「(本は)僕の魂を高揚させ、時に引きずり回してくれた。弱虫の僕でも本の中なら蛇がうじゃうじゃした場所に行ける。絶世の美女にも会える。」と語っている[3]。そう、本は我々を未知なる世界に連れて行ってくれる”どこでもドア”なのだ。電子書籍化が進む世の中であるが、図書館に行きたくても行けない人がいる限り、「あすなろ号」のように図書館バスは残り続けるだろう。また新しい図書館バスが、震災地の子供たちに”世界への扉”を届けようとしている。

[参考・引用]
[1]移動図書館、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%BB%E5%8B%95%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8
[2]根室図書館 『大地みらい号』出発、別海町議会議員 安倍政博、2010年4月10日、
http://blogs.yahoo.co.jp/masahiro_abe_climate/archive/2010/4/10
[3]「僕の命」と言う超読書家・児玉清さん、毎日新聞朝刊、2009年8月1日、
http://mainichi.jp/feature/sanko/archive/news/2011/20110517org00m040016000c.html
[4]ねむろ半島を走って10万Km~あすなろ号同乗記、特集<今、図書館がおもしろい>、広報ねむろ、平成10年5月号、
http://www.city.nemuro.hokkaido.jp/dcitynd.nsf/doc/E0D9094773F0BA25492570DE001B9C1F?OpenDocument
※本稿によると運行開始は昭和53年となっているが、根室市図書館にお聞きしたところ昭和50年から運行が開始されているとのこと。
[5]心の豊かさと「知」を満たしてくれる本を30年間求めつづけた読書サークル『新樹の会』
根室市図書館の読書会活動、ウェブマガジン カムインミンタラ、2000年01月号、第96号、
http://kamuimintara.net/detail.php?rskey=96200001t01
[6]ふそう小型バス「ローザ」に日本初 超ロングボディ車「スーパーロング」を追加し、新発売、三菱自動車ホームページ、
http://www.mitsubishi-fuso.com/jp/news/news_content/980930/980930.html

みさきめぐりのとしょかんバス―としょかんバス・シリーズ〈1〉 (絵本の泉)みさきめぐりのとしょかんバス―としょかんバス・シリーズ〈1〉 (絵本の泉)
(1996/05)
松永 伊知子

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