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クルマの安全性に対する素朴な疑問  

X-Trailの前面衝突試験

福島原発の事故はついに、浜岡原発停止を政府が求める事態にまで波及した。これらは電力会社や所管する監督官庁の、原子力の安全に対する「想定」の甘さに起因するものであるが、以前にも書いたように電力問題について真剣に向き合ってこなかったエンドユーザーである我々の責任も大きい。一方、電力と同じように我々の生活に欠かせない自動車の安全は大丈夫なのであろうか。先月も小学生6名が歩道に突っ込んできたクレーン車に轢かれ亡くなるという非常に痛ましい事故が発生したばかり。10年前の約半減とはいえ自動車事故によって貴い命を失った方はいまだに年間約5千人もおられる[1]。東日本大震災による死者・行方不明者数約2万5千人と比較してもかなりの数だ。原発事故による長期的な環境・健康リスクは甚大とはいえ、少なくとも今回の事故による死者は現時点ではまだ一人もいない。酒を飲みながら発電所を監視する作業員はいないだろうが、これだけ騒がれてなお飲酒運転での摘発は絶えない。そういう意味では、自動車の安全の方が実は深刻で、自動車会社の対策は電力会社に対して決して胸を張れるレベルでもないのだ。前回の「ハッスル!エルくん!」で紹介したように、ダミー人形くんがクルマの安全のために日夜働いているのだけれどもね。地震、原発の安全は毎日のように議論されているが、我々の身の回りにはリスクがいっぱい。少し視点を変えてみることも大事だ。昨年買い換えた愛車エクストレイルの安全性についても素朴な疑問が沸く。

このブログでも何度か取り上げている後席3点式シートベルトに関する疑問である。中古で買った平成22年4月登録のマイ・エクストレイルにはリア中央席に3点式シートベルトは設定されていない(ヘッドレストすらない)。車が正面衝突した場合、シートベルトをしていなければ、慣性の法則に従って、衝突直前の車速で乗員は前方に放り出され、インストやフロントガラスに直撃する。2点式シートベルトでもあるに越したことはないが、身体は“く”の字に折れ曲がって衝突時の衝撃力を腹部のみで受ける訳だから、腹部損傷のリスクが残る(2点式は正しくは骨盤に装着するように指示されているが、うまい具合に骨盤で保持できると思えない)。当然腹部と胸部、上半身全体で衝撃力を受ける3点式シートベルトの方がダメージが少ないことは明らかである。ヘッドレストの重要性は前回説明したとおり。

マイチェンではHRも後席中央シートベルトも付いたX-Trail
マイチェンではHRも後席中央シートベルトも付いたX-Trail

したがって、全席3点式のカングー時代(2003年式)に後席に妻と子ども2人が座っていた乗車配置は、現在は助手席に妻、後席に子ども2人という配置にせざるを得なくなった。タッチの差で昨年7月のマイナーチェンジモデルで、全席ELR(※1)付3点式シートベルトが標準装備になっている。マイチェン前のモデルにも、オプションでリア中央席3点式シートベルト、ヘッドレスト、サイドエアバッグなどの安全装備パッケージが設定されているのだが、メーカーオプションなので工場出荷時の設定、後付は出来ない。

それにしても乗車定員5名と謳っているにも関わらず、リア中央席乗員にのみ、安全装備でディスアドバンテージを設ける企業姿勢はいかがなものであろうか。5名定員ならば何故5名全員を同じ条件にしないのだろう。私はなるべくリア中央席には人を乗せないようにしている。

不思議なことに海外仕様のエクストレイルの安全装備を調べてみると、2007年の海外モデル(豪州)ではリア中央席が3点式シートベルトとなっている[2]。国内仕様は2010年7月に設定されるので海外仕様との差は3年以上もある。これは一体どういうことなのだろう。使用する国によって安全装備の条件が異なっても良いのだろうか。同じ車に乗っていても、豪州では無傷、日本国内では重傷となるようなことがあって良いのだろうか。日産はどのような安全ポリシーにしたがって、このような差別化を図ったのであろうか。

このことは何もエクストレイルに限ったことではない。国内三大メーカー、トヨタ、ホンダ、日産のグローバルカー(世界戦略車)について調べてみた。ヴィッツ(海外名ヤリス)、フィット、マーチ(海外名マイクラ)、いわゆるBセグメントといわれるコンパクトカーだ。

トヨタ・ヴィッツ(2010年モデル)
トヨタ・ヴィッツ(2010年モデル)

トヨタ・ヴィッツは2010年に3代目のモデルチェンジを行っているが、先代(05-10年モデル)はリア左右席がELR付3点式で中央席は2点式。ところが先代モデルに相当するヤリスは全席ELR付3点式で、リア左右席がALR/ELR式(※2)になっている[3]。国内仕様のヴィッツは、最新モデルでもリア左右席がELR付3点式で中央席は2点式のままのようだ[4]。

ホンダ・フィット(2007年モデル)
ホンダ・フィット(2007年モデル)

ホンダ・フィットの現行モデル(07年モデルGE型)は、ヴィッツと同様リア左右席はELR付3点式で中央席は2点式[5]。2010年に投入されたハイブリットモデルも同様。一方、海外モデルは全席3点式である[6]。

日産・マーチ(2010年モデル)
日産・マーチ(2010年モデル)

日産・マーチも2010年にモデルチェンジを行っているが、先代(03-10年モデルK12型)はヴィッツ、フィットの国内仕様と同じリア左右席がELR付3点式で中央席は2点式。一方同じK12型マイクラは全席3点式で[7]、国内仕様も最新モデルのK13型になって全席3点式を採用している[8]。

国内仕様は全席3点式を採用しているマーチにアドバンテージがあるが、仕向け地によって安全装備での差別化を図っているのはいずれのメーカーも同じである。これはコストの理由が一番大きいと思われる。特に経済性優先のコンパクトカーである。2点式より3点式の方が安全性能上優位であることはメーカーは百も承知のはず。海外モデルには早くから採用しているのだし、技術的には何の問題もない。ただ、2点式と3点式では荷重の入力条件が異なるのでシートフレーム構造も変えなくてはならないし、ベルトの部品も含めて大幅なコスト増につながる。恐らく数万以上は価格に跳ね返るだろう。これを消費者は高いとみるか安いとみるか。それに国内では中央席に対する法規制がないのでとりあえず2点式でも認可される(但し、2012年7月から後部中央座席に3点式シートベルトの設置がやっと義務化される)[9]。

こういう国内メーカの企業姿勢は実はもっと昔から問題視されてきた。1989年から90年にかけてNHKで放送された「第2次交通戦争への処方箋ー死者半減・西ドイツはこうして成功した!」「第2次交通戦争の構造-死者急増・なぜ日本で死者が減らないのか?」は当時大きな反響を呼んだ。この中で、日本車が安全水準の高い欧米に輸出される際、日本とは仕様の異なる車を製造し、供給しているという事実が明らかにされた。日本ではドイツ並みの事故調査が行われていない。運輸省の基準をクリアすること、コストダウンを追及すること。これのみを考えて、安全への配慮が欠如しているメーカーの開発姿勢が、問題点として提起された[10]。

確かにその後の日本車メーカーの安全技術開発は進み、実際に対‘90年比で死亡者数は6割も減っている[11]。このテレビ番組が日本の交通事故対策を考え直す一つの契機になったことは間違いない。しかし、上記のように相変わらず内外仕様差の問題は存在しているし、金融クライシスや東北大震災を受けて、コストダウンの要求は益々厳しくなっているだろう。ルール(による罰則規定)があればそれに忠実に従う。逆にいえばルールがなければ何もしない野放し状態。ユッケの食中毒問題はまさにこれだ。指示したことしかやらない使えねえ新人みたいなもんだ。自動車業界、あるいは監督官庁に染み付いた体質は、残念ながらNHKで問題提起されて以来20年以上経った今も本質的には変っていないように見える。

しかし、この体質の土壌を生む要因となっているのは、原発や焼肉店の事故と同じでエンドユーザーの無知・無関心によるものが大きい。何の悪びれることなく、酒を飲み、テレビを視て、携帯をしながら運転するドライバーたち。運転中、チャイルドシートに座らず車内で遊んでいる子どもに平気でいられる親たち。リア中央席の3点式シートベルトよりも、後方にクラッシャブルゾーンがほとんど確保されていない、どう見たって危険極まりない3列目のシートを欲しがる消費者たち(後席3列目の安全性については[12]に詳しく考察されています)。企業に舐められないように使い手の我々ががもっと賢くならなくては。賢い顧客が賢い企業を育てる。

最後に国内三大メーカーの安全ポリシーを各社ホームページから引用する。ここから何が読み取れるのか、皆さんも自動車の安全についてたまにはじっくり考えてみて欲しい。安全は与えられるもののではなく、自らが考え作り出していくものだ。

【トヨタ】
「交通事故死傷者ゼロ」を目指し、「人・クルマ・交通環境」の三位一体による交通安全の取り組みを進めており、より安全な「クルマ」づくりに加え、ドライバーや歩行者など「人」への啓発や「交通環境」整備への提言など、総合的にアプローチしています。
http://www.toyota.co.jp/jp/safety_activities/

【ホンダ】
クルマやバイクに乗っている人だけでなく、乗っていない人(他車の乗員や歩行者・自転車など)の安全も同時に考慮し(共存安全思想)、さらに効果の高い技術をすべてのクルマやバイクに装着することを目指し、モビリティ社会で暮らすすべての人の安全を追求することです。
http://www.honda.co.jp/safety/policy/

【日産】
日産は、「2015年までに日産車の関わる国内の死亡・重傷者数を半減させる(1995年比)」という目標を掲げています。「クルマが人を守る」という、より高度で積極的な安全の考え方「セーフティ・シールド」に基づく技術開発を進めています。これは、通常運転から衝突後まで、クルマが状況に応じて様々なバリア機能を働かせ、少しでも危険に近づけないようサポートし続けるという考え方です。また、クルマの安全性能だけでなく、啓発活動や運転技術向上など人の運転行動による事故低減と、交通社会へのアプローチにも取り組んでいます。
http://www.nissan-global.com/JP/SAFETY/

(※1)Emergency Locking Retractor(緊急ロック式巻き取り装置)
平常時は装着者の身体の動きを阻害しないように強く拘束せず、衝突時にベルトをロックする。車体の傾き、車両の減速度、ベルトの引き出し速度を感知して作動する[13]。
(※2)Automatic/Emergency Locking Retractor(自動ロック式/緊急ロック式巻き取り装置)
ALRは引き出したベルトを任意の位置で停止させることで自動的にロックする。ロック時は巻き取り方向にのみ動き、それ以上引き出せなくなる[13]。ELRとの併用式はチャイルドシート固定用に用いられるもので、ELR式だけの場合は、引き出しても衝撃等を受けない限り、ベルトの出し入れは自由だが、ALR/ELR式の場合は、一端ベルトを一杯に引き出すと、引き出す機能がキャンセルされて、次ぎに伸び切ったシートベルトを、手を添えて引き戻し、その途中で、その引き戻しを止めるとベルトが固定される。そうすれば、そこからベルトは引き出し方向には動かなくなるので、チャイルドシートが固定される[14]。



[参考・引用]
[1]平成22年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締状況について、
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001070077
[2]http://www.howsafeisyourcar.com.au/2008/Nissan/X-Trail/ST-T31-4D-Wagon-6sp-man-2_5L-4cyl-Petrol/
[3]http://www.toyota.co.uk/cgi-bin/toyota/bv/generic_editorial.jsp?deepLink=YA5_Equipment_new&nodiv=TRUE&fullwidth=TRUE&edname=YA5_equipment&zone=Zone%20YARIS&navRoot=toyota_1024_root
[4]http://toyota.jp/vitz/spec/equipment/
[5]http://www.honda.co.jp/Fit/webcatalog/equipment/list/
[6]http://automobiles.honda.com/fit/specifications.aspx
[7]http://www.nissan.co.uk/etc/medialib/nissaneu/_gb_en/_Brochures/city_cars/-474.Par.36631.File.pdf
[8]http://www2.nissan.co.jp/MARCH/PDF/march_specsheet.pdf
[9]【シートベルト】後席の3点式シートベルトを標準化しない理由って?、清水草一、Autoc one、
http://autoc-one.jp/word/403073/
[10]“消費者無知”の実態をあなたは知っているか、メルセデス・ベンツに乗るということ、赤池学・金谷年展・共著、日経ビジネス文庫
[11]交通事故死者数等の推移、日本の交通事情、社団法人交通管理システム協会、
http://www.utms.or.jp/japanese/condi/jiko.html
[12]衝突実験・後席(特に3列目)搭乗者の安全性についての考察
http://minkara.carview.co.jp/userid/122990/blog/21522271/
[13]シートベルト、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88
[14]チャイルドシートを取り付けよう!、徳小寺無恒、復活!ブルーバード、
http://u14sss22ltd.fc2web.com/etc/chirdcarseats/chirdcarseatsmain.html


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Posted on 2011/05/08 Sun. 19:53 [edit]

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