じどうしゃアーチャー

じどうしゃアーチャー

1ヶ月以上ぶりのじどうしゃ絵本ネタUPです。花粉症が日ごとに悪化、職場でも家庭でも全くやる気NOTHING。当然ブログを更新する気力も失せる。そんな中でも先週の日曜日は、娘たちの学年がNHK教育新番組のテレビ出演ということで、地元ホテルでの公開収録に行って来ました(テレビに映るかもしれないと収録中マスクをしなかったのがいけなかったなあ)。
http://www.nhk.or.jp/sls/
http://www.nhk.or.jp/school-blog/300/79139.html

目の痒みがあまりにもひどいもんで、卓上でも車内でも使用できるポータブルの空気清浄機(三洋電機製CAF-VW10TG)を急遽購入。これで症状が結構マシになったので、久しぶりに筆をとることにした。で、今回紹介するクルマ絵本は「じどうしゃアーチャー」(片平直樹・文、 伊藤正道・絵、小林彰太郎・監修、教育画劇)。前々回「ベントンのシート」の紹介ではベントレーを取り上げたが、ロールス・ロイスが主人公の絵本もあるのですよ!戦前のR-Rを代表するモデル、40/50HPシルヴァーゴースト・アルパイン・イーグル(Rolls-Royce 40/50HP Silver-Ghost "Alpine-Eagle")というクラシックカーが登場する超マニアックな絵本である。


ストーリーは、クルマと話が出来るジョージ少年と、”アーチャー”こと1台のロールス・ロイスの物語。ジョージ少年はこの車を作ったピーター・ブラウンの孫。ピーター・ブラウンは恐らくR-Rの工場で働いていた労働者なのだろう。仲良しのジョージ少年とアーチャーはいつも一緒にいたいと願っていたが、アーチャーがある日お金持ちに買われてしまった。シルヴァーゴーストは庶民には買えないものすごく高いクルマなのだ(※1918年当時、簡素モデルでも約1150ポンドだったらしく、今の価値に換算すると日本円にして約5百数十万円もする)。「いつか必ず君を迎えに行く」「僕も君を信じて待っている」と彼らは約束をした。

ブルックランズでも大活躍(「じどうしゃアーチャー」より)
ブルックランズでも大活躍(「じどうしゃアーチャー」より)

アーチャーの新しい環境では、誰も彼とお話してくれる人はいない。でもみんな親切だ。あのブルックランズのサーキット・レースに出場して優勝もした。でも海の向こうで戦争が始まり、ご主人様の出兵にお供することになった。事実、第1次大戦でシルヴァーゴーストは、その高い耐久性と信頼性を買われて“平服”を脱ぎ捨て、装甲車や指揮官車として使われたことはよく知られている。でもその戦争で壊れてしまったアーチャーは本国へ送り還された。

Silver Ghostベースの装甲車(第1次大戦期)
Silver Ghostベースの装甲車(第1次大戦期)

戦争が終わって“平服”に戻ったアーチャーは、今度は象やトラのいる暑い国へ送られた。シルヴァーゴーストは英王室のプライベート車として使われることが多かったが(当時の公用車はディムラー)、外国の王室、特にインドの王侯は多数のシルヴァーゴーストを購入したそうだ。なのでこの暑い国はインドに違いない。でも彼が王様とトラ狩りに出たときに「トラがりに自動車を使うなんて、とんでもない!」と象と象使いに痛めつけられた。そうしてまた本国に送り還されたアーチャーは何年も倉庫でほったらかしにされた後、今度は消防車になった。「誰でも一生に一度はロールス・ロイスに乗れる。それは死んだときだ。」と冗談を言われるくらい古いシルヴァーゴーストは霊柩車として使われることが多かったそうだが、さすがに絵本の題材にはならないでしょ。火事で出動するアーチャー。でもそこで見たものは戦火で燃えさかる街の姿だった。何も手が出せない自分がもどかしい。この戦争にジョージが巻き込まれていないかを心配するアーチャーだった。

ジョージ社長とアーチャー(「じどうしゃアーチャー」より)
ジョージ社長とアーチャー(「じどうしゃアーチャー」より)

2度目の大きな戦争も終わり、次は魚を運ぶトラックになった。でも今度のご主人は全く手入れをしてくれないので、とうとうエンジンが止まってしまった。その後、子どもたちの遊具になってしまったが、彼と話をできる子どもはいない。ジョージの思い出を胸にここで朽ち果ててしまうのか、そう思ったとき一人の老人が彼に話しかけてきた。ジョージだった。彼はアーチャーを作った会社の社長になっていた。「君のために自動車博物館を建てたんだ。」それからアーチャーは、いつもジョージと一緒だった。

それにしても何と波乱万丈な息の長いじどうしゃの使われ方だろう。実際のシルヴァーゴーストの多くもこのように形を変え用途を変えて乗り続けられたに違いない。数々のリユースに堪え得るということは、R-Rが“The Best Car in the World”と呼ばれた所以である。これだけ使い倒してもらえれば作り手も、そしてクルマ自身も本望だ。

モデルとなった1919 Rolls-Royce 40/50HP Silver Ghost Alpine Eagle
1919 Rolls-Royce 40/50HP Silver Ghost Alpine Eagle[4]

さて、実際のロールス・ロイス社は自動車博物館を所有していないようだが(オーストリアにRolls-Royce Museumという運営団体のバックグラウンドがよくわからないが世界最大のR-R博物館がある)、本書のモデルとなった伝説の“イーグル”は日本の小さな自動車博物館に現存する。埼玉県新加須市にあるワク井ミュージアムというその博物館には16台のR-Rとベントレーのクラシックカーが展示されている。その中の1台が本書のモデルとなった1919年製アルパイン・イーグルである。館長の涌井清春氏は20年以上前にベントレーの虜となり、R-Rとベントレーの輸入商を始められた人。まさにR-Rと友だちになったジョージ少年のような方なのだ。本書と同じブリティッシュグリーンの渋い“イーグル”。私はクルマの絵本に魅せられる以前は、ジャガーEタイプのようなスポーツカーがカッコイイクルマの代表だった。でも、いろいろなクルマたちを調べるようになって、この戦前のクラシック・スポーツカーも実にスタイリングが美しく、カッコイイと思えるようになった。ワク井ミュージアムでは、実物の“イーグル”と一緒に本書の読み聞かせ会も開催している(羨ましい!)[2]。EVやFCVなど最先端のじどうしゃに触れるエコスクールもいいけれど、『古典の名作』にも触れさせることは子どもたちにとって大切なことだ。

こういう絵本が洋書ではなく、日本人による日本人ための日本語の絵本だってことがスゴイ。しかもモデルとなった古くて稀少な英国車も日本人が所有しているなんて。シルヴァーゴースト中、最も美しいといわれたアルパイン・イーグルを忠実に再現し、豊かな色彩も含めて非常に美しい絵本に仕上がっている。日本の絵本の質の高さは、印刷技術も含めて世界トップレベルといわれるが、このすばらしい仕事は、世界、特にR-Rの祖国イギリスにも紹介すべきであろう。英国人エンスーやその子供たちは大変喜ぶに違いない。もちろん日本の絵本好き、クルマ好きの方にも是非一度手にとって読んでいただきたい。

片平直樹
片平直樹

その美しい挿絵を描いたのは伊藤正道氏。略歴は「アンシャンテがやってきた」を参照されたし。作者の片平直樹氏は、1965年東京都生まれの作家。母の友(福音館書店)に掲載された『ケシュケシュ』でデビュー。[3]によると彼は大のクルマ好き。クルマ好きの必読書「CAR GRAPHIC」誌を愛読し、簡単なメンテナンスが出来るまでにクルマ好きが高じていったそうだ。彼自身の人生のターニングポイントには必ず自動車があり、作家になるきっかけにも、或る一台の自動車の存在があったようである。職業人生を決めたクルマって何なのだろう。気になるなあ。

小林彰太郎
小林彰太郎

その「CAR GRAPHIC」誌の創始者、初代編集長にして現在は同誌編集顧問である小林彰太郎氏が本書の監修をされている。クルマ好きで知らない人はいないくらい有名な方だ。1929年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、戦後初の本格的自動車雑誌『モーターマガジン』に寄稿。1962年に二玄社から『CAR GRAPHIC』(創刊時は「CARグラフィック」)を創刊。1966年、同社取締役・初代編集長に就任。同誌を日本の代表的な自動車雑誌に育て上げる。1989年、編集長退任後も編集顧問として、自動車評論家として積極的な活動を行っている。また日本クラシックカークラブ(CCCJ)会長も務める。本書を読む上で、彼が編者となっている「CAR GRAPHIC LIBRARY世界の自動車21 ロールス・ロイス-戦前」(二玄社)を参考としたのはいうまでもない。

(※)1918年の1ポンドの価値が2010年で32.4ポンドの換算による。2010年は平均すると1ポンド=約140円程度のレートだったから、1150ポンド×32.4×140円=520万円

http://wiki.answers.com/Q/What_is_the_value_of_One_British_Pound_in_1918
http://www.fx-foreign-exchange.com/fx/1185.html

[参考・引用]
[1]第2章40/50HPシルヴァーゴースト、CAR GRAPHIC LIBRARY世界の自動車21 ロールス・ロイス-戦前、二玄社、1971
[2]川口市立科学館での特別展、2010年1月13日、WAKUI MUSEUM OFFICIAL MESSAGE BOARD(ブログ)、
http://wakuimuseum.blog53.fc2.com/blog-entry-52.html
[3]絵本「じどうしゃアーチャー」の出版を記念して、WAKUI MUSEUM OFFICIAL WEB、
http://www.wakuimuseum.com/home/friends.html
[4]東京コンクール・デレガンス2009 「天空で、伝説の主人公が、出会う日」、WHEELERS、
http://www.wheelers.jp/event/tokyo_concours_delegance.html

じどうしゃアーチャーじどうしゃアーチャー
(2009/07)
片平 直樹

商品詳細を見る
スポンサーサイト

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://ehonkuruma.blog59.fc2.com/tb.php/297-73602440