クルマノエホン livres d'images de voitures

楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

ブリスさん  

ブリスさん

もうすぐクリスマス。今宵はクリスマスに縁のある作家のクルマノエホンを一冊。「ホビットの冒険」や「指輪物語」などファンタジー文学の開拓者として知られるJ.R.R.トールキン(J.R.R.Torlien)。彼の関連著作としては「サンタクロースからの手紙」というクリスマス本も出版されている。トールキンは彼の子供たちを喜ばせるために毎年毎年、サンタクロースやいろいろな動物になりすまして、一続きのお話や絵を添えた手紙を彼らに送っていた。それら小話を彼の没後一冊にまとめたのがこの本である。本当に北極から届いたように“North Pole”と描かれた切手や消印なども自作するほどの懲りよう[1][2]。ここまで手の込んだ、父親の愛情溢れるクリスマスカードを送られる子どもたちは本当に幸せだ。僕も凝り性だし洒落は大好きだが、さすがに愛娘・愛息にここまでの芸当はできない。さて、こんな茶目っ気たっぷりな大作家もクルマの絵本を書いている。「ブリスさん」(J.R.R.トールキン・作、田中明子・訳、評論社、原題は“Mr.Bliss”)という素敵な本を本日は紹介しよう。

ノッポ帽子がトレードマークのブリスさん
ノッポ帽子がトレードマークのブリスさん(「ブリスさん」より)

ブリスさんの家は天井が非常に高い。なぜなら、彼はいつもノッポ帽子を被っているから。ブリスさんのペットは頭と四肢がウサギ、首と体がキリンの姿をしたキリンウサギ(なんじゃそりゃ!、原文では“girabbit”)。ブリスさんはキリンウサギに「今日は天気になるかい?」と尋ねる。「もちろん、天気になりますとも!」と答えるキリンウサギは、からだが防水で、土の中に深い穴を掘って住んでいるので、どんな日だっていい天気。おまけに目も見えないので、お天道様が照っているかもわからない。このように最初から人を食ったような設定で始まる本書は、シニカルで洒落好きの英国人作家らしいナンセンス絵本だ。

キリンウサギ
キリンウサギ(「ブリスさん」より)

そんなブリスさん、突然自動車を買いに出かける。彼が手に入れたのは、目のさめるような黄色の内外装に赤いタイヤのクルマ。奇抜なカラーと木靴のようなデザインで、ノッポ帽子を被ったブリスさんが乗ると、いっそうアバンギャルドな雰囲気。早速友人のドーキンズ兄弟を訪ねて驚かしてやろうと、このイカしたクルマを運転し始めた。と、最初の角を曲がったとたん、手押し車にキャベツをいっぱい積んで庭から出てきたデイおじさんとぶつかった。打ち所が悪くて歩けないというデイおじさんとキャベツをのせてまたクルマを走らせる。で、ふたつめの角を曲がると、今度はロバにひかせた荷車にバナナいっぱい積んだナイトおばさんにぶつかった。荷車が壊れたナイトおばさんとバナナをのせて、クルマの後ろにロバをつないだ。

作者トールキンの伝記によれば、彼は1932年(40歳のとき)に初めて車を買い、覚えたての運転で、家族と弟の果樹園を訪ねたそうだ。途中車は2度パンクし、堤防の壁の一部を壊したらしく、そのような体験をもとに書かれたのがこのお話のようである(本書解説文より)。こんな具合に、ユーモアのセンス溢れるちょっと変わった冒険話が息つく暇もなく続いていく。この続きは本書を購入してじっくり読んでいただきたい。

ブリスさんのクルマの挿絵とトールキンの味わい深い自筆の原文
ブリスさんのクルマの挿絵とトールキンの味わい深い自筆の原文(「ブリスさん」より)

本書(翻訳本)は、見開き右側がトールキンの味のある自筆の原文と挿絵(絵のセンスも一級品)の原書で、左側にテキストの和訳が構成されている。読みやすい筆跡と文体(トールキンは英文学の教授ですから)なので、原文と日本語訳とを読み比べると英語の勉強になるのではないだろうか。前出の「サンタクロースからの手紙」と同様、1920年代から30年代にかけて、彼の子どもたちを楽しませるために書いたプライベートな作品であり、彼の没後(1982)に出版・公開されたものである。

J.R.R.トールキン(J.R.R.Torlkien)は、1892年南アフリカ生まれのイギリスの作家、詩人、言語学者。サクソン系イングランド出身の銀行員だった父を4歳で亡くし、以後イギリスで暮らす。12歳のときに母も病死、弟とともにカトリックの司祭にひきとられた。苦学して1915年オックスフォード大学を卒業、1915年から1918年まで第一次世界大戦に従軍。以後リーズ大学を経てオックスフォード大学教授となる。古代、中世英語・英文学の権威として知られ、わが子に語った話をもとに書いた『ホビットの冒険』(1937)で、叙事詩ファンタジーというジャンルを創り、『指輪物語』(1954-1955)は世界的ベストセラーとなる。1973年、81歳で永眠[3]。

J.R.R.Torlkien
J.R.R.Torlkien

前述のように、トールキン自身、車を所有した経歴があるようだが、[1]によれば、彼は故郷イギリスの田園のような美しい自然を破壊する工業化の負の側面を激しく嫌悪していたようである。このため、人生の大部分では自動車を避け、自転車に乗るのを好んだ。彼の著作「ファンタジーの世界―妖精物語についてー」(猪熊葉子・訳、福音館書店)における『自動車がたとえば馬よりも「現実的」である、というのは、かなしいほどばかげた考えです。一本の楡の木とくらべてみて、工場の煙突がどれほど現実的で、思わず目をみはるほど生き生きとしている、というのでしょうか。木はしょせん時代遅れの代物、逃避する者の空疎なはかない夢だとでもいうのでしょうか!』という記述[4]にも、彼の自動車(工業)観の一端が見て取れる。また、子供が独立した後に移り住んだ家も、近所の通りの交通量が多く、自動車嫌いのトールキンには耐えがたかったためすぐに転居したなんて逸話もあるらしい[5]。

本書においても、ブリスさんが黄色い自動車を買う前は(坂を下るだけのペダルのない!)銀色の自転車を所有していたし、数々の珍道中を経た後は、高い自動車修理費を請求され、その後は二度と自動車を使わなかった、見るのもいやになった、今ではロバの引く小さいくるまに乗っていると書かれている。サイケな楽しいクルマが描かれた絵本ではあるものの、本当は作者トールキンが大のクルマ嫌いだったことがわかって、僕にはちょっと複雑なクルマの絵本となってしまった。でも、おしゃれで楽しい絵本です。

[参考・引用]
[1]J.R.R.トールキン、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/J%E3%83%BBR%E3%83%BBR%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%B3
[2]『ファーザー・クリスマス サンタ・クロースからの手紙』 J.R.R.トールキン、Yuka's Diary、2010年6月1日、
http://yuka-25.jugem.jp/?eid=1
[3]著者紹介、J.R.R.トールキンの本、いやしの本棚、
http://www.geocities.jp/ayagonmail/books/tolkien.html#author
[4]ファンタジーの世界―妖精物語についてーJ.R.R.トーキン・著、猪熊葉子・訳、The Wind in Middle-earth、
http://www5e.biglobe.ne.jp/~midearth/books/hukkan.htm
[5]トールキンの家探しその1、指輪旅行記、
http://homepage3.nifty.com/gura58/travel/2003.8.19-2.htm

ブリスさんブリスさん
(1993/02)
J.R.R. トールキン

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Posted on 2010/12/13 Mon. 22:24 [edit]

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