Fiat 128

Fiat128
出典:『世界と日本のFF車の歴史』(武田隆・著、グランプリ出版)

ムナーリのクルマ絵本「きいろずきんちゃん」の表紙にさりげなくコラージュされたフィアット128。私は不勉強で知らないクルマだったが、よくよく調べてみると、自動車史に残る名車であった。今回はこの128について勉強してみたいと思う。

フィアット128の功績は、私の愛車カングーもそうであるが、現在のFF(エンジン前置き・前輪駆動)車の礎を築いたことにある。世の中のほとんどの小型車に採用されているFF方式の基本は、エンジンと変速機(トランスミッション)を直列(真横に)配置し、エンジンを車体前方に横置きに搭載したレイアウトである。このFFの基本スタイルを世界中に普及させたのがフィアット128である。フィアット128こそ、カー・オブ・センチュリー(20世紀)のNo.1だと主張される熱き御仁もおられるが[1]、いろいろな資料を調べてみて、ベスト1かは別としても、その地味な外観からくるのか(このボクシーなスタイルは、個人的に非常に好きだ)、フィアット128は過小評価されていると思う。既出の「自動車の本」や「世界自動車図鑑 誕生から現在まで」でもちょっとしか言及されていない。

まず、パワートレインの基礎のおさらい。エンジンの搭載方式には横置き式と縦置き式がある。エンジンを置く場所には車体前部と後部の考え方があるが、ここでは一般的な車体前部に置くフロントエンジンを前提としよう。エンジンの回転軸(クランクシャフト)が進行方向と平行の場合、縦置きエンジンと呼ぶ(図1)。一方、回転軸が進行方向と垂直の場合、横置きエンジンと呼ぶ(図2)。エンジンの回転力を車輪に伝達する駆動方式には、大きく前輪駆動(FF)と後輪駆動(FR)、前後輪を駆動する四輪駆動(4WD)方式があるが、エンジンを横に置くか縦に置くかは、この駆動方式に密接に関わってくる。

図1.FR概念図
図1.FR概念図

縦置きエンジンの場合、動力をエンジンの回転軸方向に沿って後方に送りやすいので、必然的に後輪を駆動するFRに適している。とはいえ、途中にキャビンが存在するので、FRではプロペラシャフトを介して車体後方に動力を送り、デファレンシャルギア(通称デフ)で左右の車輪軸(リアアクスルシャフト)の回転力に変換する構成となっている(図1)。この構成を見ると、左右対称であることは一目瞭然。よって車両左右の重量バランスが良い。また、トランスミッションやプロペラシャフト、デフなどの重量物を後方に配置できるので、車両前後の重量バランスを取りやすいし、エンジンルームには左右にスペースが確保できるので、サスペンションなど足回りの設計に自由度が得られる。したがって前後左右の安定性が良い、すなわち走行安定性能が高くなる。また、フロントノーズを長くすれば、エンジンを縦に長くできるので、多気筒エンジンを搭載することが可能となる。以上の特徴から、高性能・高出力の乗用車、つまり高級車は、一般的にはFRである。自動車の歴史から見ても、まずFRから発達をして、20世紀初頭にはFR車が普及をしていった。

図2.FF概念図
図2.FF概念図

しかしFR方式にも欠点はある。縦方向に長くできるとはいえ、やはりキャビンスペースは圧縮される。キャビン下に配置されるプロペラシャフトやデフの存在は、キャビンスペースの上下方向の制約も受ける。人気の高いワンボックス車は低床フルフラットが命であるが、FRであればそれもままならない。また、トランスミッション、プロペラシャフト、デフと動力伝達装置が分散して配置されるので、効率も悪く、重量もかさむので燃費も悪い。よって、1930年頃になり、欧米でモータリゼーション(大衆化)の波が訪れると、プロペラシャフトを無くしてデフを車体前方に移動させて前輪を駆動させることで、よりコンパクトで効率のよいFF車へ移行するのは必然であった(図2)。それでも、FF車の登場した初期の頃は、エンジンは縦置きだった。横置きにすると、エンジンルームの制約から多気筒のエンジンは積めないし、なにより駆動系の配置が難しかったからである。

図3.FF縦置き概念図
図3.FF縦置き概念図

駆動方式に関係なく、エンジンの回転軸に沿ってエンジンと変速機、さらにギヤボックスであるデフを直列に連結することは、構造上素直な設計である。FFでエンジンを縦置きにすると、デフが車体中央に置かれるので、車輪軸(ドライブシャフト)は左右等長になる(図3)。同様にエンジンを横置きにすると、変速機はエンジンの片側に配置されるので、デフも左右の一方に寄り、ドライブシャフトが左右不等長になってしまう(図2)。左右の長さが異なると、左右輪に伝わる駆動力も不均等になってしまうので、走りに不安定さが出てしまう(専門的にはトルクステアという)。当初はFFでも縦置きが主流であったのは、このような設計上の合理性からであった。しかし、エンジンの縦置きではFRのデメリットであったキャビンスペースの広さにも影響を与え、経済性が高いがゆえに小型量産車に適したFFレイアウトにとっては致命的であった。

Alec Issigonis Dante Giacosa
(左)Alec Issigonis(右)Dante Giacosa
出典(左):http://wikicars.org/en/Sir_Alec_Issigonis
出典(右):http://www.500clubitalia.it/dante-giacosa

これを解決すべく、エンジン横置き式のFFを最初に実用化したのが、「ミニの歴史」でも紹介した1959年の「BMCミニ」である。BMCミニではエンジンと変速機を直列ではなく2階建てとし、デフを車体中央に配置して上記の問題を解決した。これは設計者のアレック・イシゴニス(Alec Issigonis)の名前をとって、「イシゴニス式」と呼ばれる。ただし、エンジンの位置が高くなり、重心が高くなることと、構造自体が複雑となり開発コストがかかるデメリットがあった。しかし、当時としては革命的なレイアウトだった。

ジアコーザ式とイシゴニス式の概念図([2]より引用)
ジアコーザ式とイシゴニス式の概念図([2]より引用)

そして、今回の主人公、フィアット128が満を持して1969年に登場する。BMCと違って1116cc、直列4気筒エンジンと変速機は直列配置をしたシンプルなレイアウトで、FRのパワートレインをそのまま流用できるというコストメリットもあった。その構成上、デフは片側に寄るので前述のように不利な面もあったが、信頼性の高い等速ジョイントという装置を用いることにより、ドライブシャフトの左右の長さ違いの制約をあまり受けなくなった。これはFiat500も手がけた設計者のダンテ・ジアコーサ(Dante Giacosa)の名前から、「ジアコーサ式」と呼ばれる。このようなパワートレインのレイアウトは、決して新しいものではなく、古くはアメリカのクリスティーやドイツのトラバントなどにも見られるが、この車が注目されたのは、サスペンションに構造が簡単でスペースのとらないマクファーソン・ストラット式を採用したことで、居住性やトランクの広さなど、FF車の合理性を遺憾なく発揮したところによる。この車の登場によって、世界中の中型以下のFR車がFF車に移行していったことから、自動車史に与えた影響は計り知れない[3]。1970年には、欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

イシゴニス式のミニパワートレイン([4]より引用)
ジアコーザ式の128パワートレイン([4]より引用)
(上)イシゴニス式のミニパワートレイン([4]より引用)
(下)ジアコーザ式の128パワートレイン([4]より引用)

1971年には1290ccに排気量アップし、クーペ(128AC)、とラリー(128AR)を追加。1985年までに350万台以上を生産した[5]。間違いなく、自動車史のエポックメイキングとなる名車の一台である。

[参考・引用]
[1]正真正銘のカー・オブ・ザ・センチュリー フィアット128の功績、シャルル・パナール博士の異常な愛情、
http://blog.goo.ne.jp/yogorouza_1979/e/44827145844f87c476991bab31a28500
[2]世界と日本のFF車の歴史、武田隆、グランプリ出版、2009年
[3]自動車「進化」の軌跡、影山夙、山海堂、1999年
[4]ジアコーザ方式横置きFFレイアウト、SITE128、
http://www2.ocn.ne.jp/~one-28/topframe.html
[5]フィアット128、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB128
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[ 2010/08/12 12:33 ] cars/車のお勉強 | TB(0) | CM(0)

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