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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

ブルーノ・ムナーリ・メソッド  

Bruno Munari

寝不足だ。アルゼンチンを翻弄した、流れるようなパスワークは今回のドイツには見られなかった。一方、スペインの球捌きのうまいこと。奇しくも息子が学び始めたスペインサッカーと、パパが永年優勝を期待しているオランダサッカーの決勝戦となった。攻撃陣の豪華なタレントに加え、決勝トーナメント全てを零封で抑えたスペインの堅守を、ロッベン、スナイデルがどうこじ開けるか。ともに初優勝を賭けた決勝は必見。両国の持ち味である美しいサッカーは封印して、壮絶な闘いになるだろう。それにしても、占いダコ「パウル君」の的中率はすごいな。

本題である。先週末の土曜日、横須賀美術館で開催された「ブルーノ・ムナーリ・メソッド®:一生の仕事」と題した講演会とワークショップに参加してきた。現在、横須賀美術館で展覧されている「ブルーノ・ムナーリ展」の関連企画として催されたものである。横須賀美術館といえば、横須賀市民と週刊新潮の読者はよくご存知のように、最近、目玉である「谷内六郎館」の存続問題で揺れている[1]。その開館以前から賛否両論のある横須賀美術館であるが、ここではその是非については言及するまい。ただ、妻は何度もワークショップを利用しているし、家族でも何度か絵を見に訪れている横須賀美術館は、建物も美しいし、眼前に東京湾の広がる絶景のロケーションも魅力的。少なくとも我が家にとっては、お気に入りの横須賀の一つである。

話題の谷内六郎館
話題の谷内六郎館

さて、ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)とはいかなる人物か?アートに関心のない方は、全く聞いたことがない名前かもしれない。かくいう私も、恥ずかしながら絵本に興味を抱いた数年前までは知らなかった。しかし、デザイナーやクリエーター、美術の先生を志す者で彼を知らない場合は、かなりヤバイ。すでに故人であるが、あのピカソをして「現代のダ・ビンチ」と言わしめたイタリアの生んだ20世紀の芸術の天才。美術家であり、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、美術教育者、造形作家、絵本作家など多才な顔を持ち、一言で彼や彼の仕事を語るのは非常に難しい。

ナンセンスの機械

みすず書房のHPでの紹介文[2]を引用すると、彼は1907年ミラノ生まれ。イタリアの前衛美術運動の一つ(後期)未来派に参加し、絵画や彫刻を制作。1933年に代表作『役に立たない機械』を発表。1942年に絵本『ナンセンスの機械』(原題『ムナーリの機械』)を刊行、この頃より子どもの創造力を育てるための絵本づくりを手がけ始める。1948年創立メンバーの一人として具体芸術運動(Movimento Arte Concreta)に参加。同年、児童のための新しい様式の絵本7種を発表。1954、55、79年に優れたデザイナーに与えられるコンパッソ・ドーロ賞を受賞。1956年よりプロダクト・ブランド、ダネーゼとのコラボレーション開始。1967年ハーバード大学でビジュアル・デザインの講座を担当。1974年国際アンデルセン賞受賞。1998年91歳で死去。著書に『芸術としてのデザイン』(ダヴィッド社)『ファンタジア』『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション』『モノからモノが生まれる』『芸術家とデザイナー』(みすず書房)、絵本『木をかこう』『太陽をかこう』(至光社国際版絵本)『闇の夜に』(河出書房新社)など多数。

講演会は、美術教育者としての彼の教育方法論に関するお話で、ワークショップではその方法の一つを具体的に体験してみるというものであった。講師は、彼の助手の1人でもあり、ムナーリ・メソッドによる創造的教育活動の普及を目的としたラボラトリーを立ち上げ、現在までその中心的な存在として活動を続けているベバ・レステッリ女史[3]。

とにかく、私は芸術教育については全くの門外漢で、ムナーリに関する知識といえば、絵本作家として彼の名前を知っている程度だった。今回は、ムナーリを知るという極めて素人的な動機から参加したのだが、大変勉強になった。彼は芸術を通じてとことん「創造性」に拘った人で、それは「創造とは本質の追及」という彼の言葉に表れている[4]。そして「遊び」ながら、その本質の追求に興じた人でもある。これは研究者の資質にも通じるところがあるように思える。私の職場の周りにいるエンジニアや研究者も、楽しみながら本質の追求をされている方は、やはり独創的であり、優れた業績をあげている。

彼は又、「何かを複雑にするのは簡単だが、単純にするのは難しい」と考え、簡素で新しいデザインを追及した[4]。多くのセンサーや電子回路を詰め込み、複雑な機構や制御ロジックの塊と化した現代の自動車は、ムナーリにとっては全く創造性の欠如した機械にしか映らないのかもしれない。

ムナーリ・メソッドにおいては、多感覚の重要性を説いている。人間はありとあらゆる感覚、視覚、聴覚、触覚、嗅覚…を使うようにすること。これは、彼が少年時代に育ったイタリアの田園風景での原体験が元になっている。水車の傍らで過ごす少年ムナーリ。水滴のきらめき、水車の回る音、小麦と水と土と苔が混ざった匂い…。昔は田舎に行けば、五感を刺激する素材が至る所にあった。そういう環境が、今は本当に少なくなった。具体的には、彼は作った作品を、天井から洗濯ばさみで挟んでぶら下げ、作品に触れられるようにしたり、素材の擦れあう音を利用して、紙による音楽会を開いたり、秤を使った作品で、重さの感覚を体感させたりと、面白い試みをされたそうだ。また、子どもに工作をさせるときには、糊を使わない方がいいとのこと。我が家では思いっきりボンドや糊を多用しているが、糊だと手が汚れて、素材を手で触る大切さを損なうというのだ。接着は糊の代わりに両面テープがいいそうだ。

常識を覆す~文字盤が自由なムナーリ・スウォッチ
常識を覆す~文字盤が自由なムナーリ・スウォッチ

また、常識やルールに背くことも教える。面白い訓練法として、普段使っているものを、別な用途に使うことを考えてみる。例えば、サッカーボールは蹴る以外に何に使えるかとか、移動手段としての自動車は、動かないただの箱であったら、何に使えるかと考えてみると頭の体操になる。以前にテレビでやっていたのだが、古くなった地下鉄の車両を、海に沈めて人工漁礁、すなわち魚のアパートに再利用していた。これも同じような発想法であろう。彼の代表的な表現技法「ゼログラフィーア」も、ルールに背いた方法論の一つ。同じものを複数作るのがコピー機の(常識的な)機能とすれば、彼はコピー機を使って1度限りのオリジナル作品を生み出した。私の知る限り、クルマを題材にしたムナーリのアート作品はほとんどないのだが、数少ない彼のクルマ絵本“Cappuccetto giallo(きいろずきんちゃん)“はその技法を使った絵本である。次回のクルマ絵本紹介は、この作品を取り上げたいと思う。

ワークショップの風景 参加者の作品の一例
(左)ワークショップの風景(右)参加者の作品の一例

さて、ワークショップは、主に視覚を刺激するアート(遊び)の体験。使う道具は、PCでのプレゼンが常識となった今では、なかなかお目にかかれないOHP(Overhead Projector)と、鳥の羽、色セロハンやプチプチ包装袋(エアパッキン)、レースや紐といったテキスタイルなど、光を透過させると面白そうな素材を適当な大きさに切って準備する。あとは、これらの素材をOHPに自由に置いていくのだ。ただ乗せるだけで、素材によって様々な表情を見せ、新しい発見がある。素材の性格を掴んだら、各々の参加者が順番に好きなようにデザインをしていく。OHPなので簡単にデザインを修正できるし、すぐに作品を確認・鑑賞することができる。これはなかなか面白く、参加していた約50名の大人たちは皆、童心にかえっていた。うちの娘は絶対にはまるアート遊びだと思う。OHPをこのように使うとは、常識の殻を打ち破るムナーリ・メソッドの真骨頂(どこかに中古のOHPが眠っていないかなあ)。アートは“遊び”だと実感したあっという間の3時間であった。

今回は観る時間がなかったのだが、メインの企画展示「ブルーノ・ムナーリ展」は8月29日まで開催されているので、是非夏休み中に家族で出かけてみようと思う。

横須賀美術館
横須賀美術館

[参考・引用]
[1]遺族が作品の返却を要求 どうなる?谷内六郎館、タウンニュース横須賀版、2010年5月28日号、
http://www.townnews.co.jp/0501/2010/05/28/50602.html
[2]ブルーノ・ムナーリ、みすず書房ホームページ、
http://www.msz.co.jp/book/author/13945.html
[3]バイオグラフィ、ムナーリ・インデックス、FUJITA DESIGN LAB.、
http://www.fdl-italform.net/brunomunarilabo/munari-bio.html
[4]ブルーノ・ムナーリ展 アートの楽しい見つけ方、横須賀美術館、2010年6月
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Posted on 2010/07/08 Thu. 22:49 [edit]

category: art/アート

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