のりたい くるま どれ?

4月のルノー・日産とダイムラーの資本提携話で、久しぶりにスリー・ポインデット・スターがマスコミの話題に上がっていたが、ことクルマノエホンの分野となるとベンツが題材になることは稀のようだ。やはり、高級車で威圧感のあるイメージのベンツは、絵本や児童書の世界では扱いずらいブランドなのかもしれない。私の知る限り、その数少ないベンツが描かれた絵本の1冊を紹介しよう。「のりたい くるま どれ?」(福村一章・絵、浅葉克己デザイン室・デザイン、小学館)である。表紙に大きく描かれているのは、メルセデス・ベンツ、CLK320アバンギャルドだ。

3~4歳の幼児向け保育絵本であるが、初版の2000年当時、巷を走っていた乗用車を、極めて写実的に描いた絵本となっている。登場するのは以下の18台。ほんの10年ほど前の車だが、既に懐かしく思ってしまうラインナップ。

①ニュービートル(VW)
②360モデナ(フェラーリ)
③初代ステップワゴン(ホンダ)
④3代目レガシー・ツーリングワゴン(スバル)
⑤初代ヴィッツ(トヨタ)
⑥2代目オデッセイ(ホンダ)
⑦8代目カローラセダン(トヨタ)
⑨2代目ワゴンR(スズキ)
⑩初代プリウス(トヨタ)
⑪2代目エスティマ(トヨタ)
⑫3代目パジェロ・ショート(三菱)
⑬90系ランドクルーザプラド(トヨタ)
⑭MR-S(トヨタ)
⑮10代目スカイラインGTR(日産)
⑯WiLL Vi(トヨタ)
⑰初代bB(トヨタ)
⑱ファンカーゴ(トヨタ)

トヨタ ヴィッツ
トヨタ カローラセダン
(上)トヨタ ヴィッツ(下)トヨタ カローラセダン
”2000年度の国内販売台数は、『カローラ』が『ヴィッツ』から首位の座を奪い返す[1]”

この一見、実在の車が羅列されているだけのような絵本は、絵本としての立ち位置というか、役割がわかりずらい。物語絵本でもなく、かといって、多少は買い物に行く車、海に行く車、山に行く車と、使う目的別で分けてはいるものの、図鑑のように体系的に分類された児童書でもない。しかし、このようなカタログ的な絵本もまた、子どもにとっては重要な意味を持つのではないかと考えた。

カタログや図鑑のような本は、ただ単に本だけを眺めていてはだめで、そこに描かれている対象物と実物を見比べることで、興味がさらに深まるはずだ。つまり、絵を見て、実物を見て、再び絵と見比べるといった行動を繰り返すことによって、対象物―ここでは自動車であるが―を認知し、さらにいろいろな種類があるということを認識し、その違いを区別するようになって自動車というものの理解を深めていくのである。子どもの頃、誰もが経験するように、捕まえてきた昆虫を図鑑の絵と見比べることで、感動を覚え、虫に興味を持つことと同じである。

自動車のモルフォ蝶?フェラーリ360モデナ
自動車のモルフォ蝶?フェラーリ360モデナ

したがって、実物との比較を助けるという意味で、近所でよく見かける自動車が選択されている訳だ。フェラーリやベンツがその辺を普通に走っている車かというと必ずしもそうではないのだが、昆虫図鑑にもヘラクレスカブトムシやモルフォ蝶など、近所にいるはずのない昆虫も載っている。でも、そういう珍しい虫たちを、たまにデパートなどの催しの世界昆虫展で初めて見て、子どもたちはさらに感動する。CLK320はヘラクレスカブトムシなのだ。

また、実物と比べるための本ならば写真絵本でもよいのではないかという意見もあるだろう。本書のような細かい描写にかける手間を考えると、写真の方が時間もコストもかからないだろう。実際に最近は写真絵本が非常に多い。でも、私はこういう類の本は、写真ではなく絵を用いるべきだと信じている。写真は、その被写体そのものの一瞬の姿を伝えるには、最も効果的な表現手段である。しかし、私が愛車のカングーを写真で撮っても、それは薄汚れた緑色の私のカングーを瞬間的に切り出したものであって、「カングー」という自動車を総体的に表現したものではない。ところが、My Kangooも絵で描かれたとたんに、Kangooという不特定の車に変貌するのである。カタログや図鑑に表現されるべきものは、その対象物の代表イメージであって、特定の対象物を表現したものではない。だから、絵による表現が最も適切だと思う。

また、写真だと環境条件や撮る方向によって、影や見えなくなるところが出来たり、色味が変わったりして、必ずしも正確な情報を伝えない。カタログや図鑑は情報量が命なので、じっくり観察して、微に入り細に入り表現できる絵の描写の方が望ましいと思うのだ。

以上のような目的に適った幼児向けの図鑑の入門編ともいえるのが、本書のような絵本である。対象となる3、4歳児には、図鑑はまだ情報量が多すぎる。分類という概念を理解するにもまだ幼なすぎる。このくらいがちょうどよい。さらに、描かれている全ての車の色を変えるといった視覚認知的な工夫が本書ではなされており、子どもたちを飽きさせないだろう。親御さんたちは、登場する車を町で見かけたら、「ご本にあったクルマだねえ」と、子どもの自動車に対する認知行動を手助けしてあげるとよいだろう。まあ、大人より先に子どもが見つけてしまうだろうけどね。

さて、子どもたちの乗りたい車は、どのクルマなのだろうか?

[参考・引用]
[1]2000年度車名別販売台数、THE 21なんでもランキング、PHP研究所、
http://www.php.co.jp/fun/the21/detail.php?page=01-6-1.html
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