ジュンとひみつの友だち

ジュンとひみつの友だち

本日紹介する『ジュンとひみつの友だち』(佐藤さとる・文、村上勉・絵、岩波書店・岩波ものがたりの本)は、私が今住んでいる横須賀・安針塚周辺を舞台にした『わんぱく天国』と同様、佐藤・村上コンビによる佳作。彼らの代表作、「コロボックル物語」ほど有名でないものの、ファンの間では人気の高い作品のようだ。本書は、クルマノエホンの本棚に入れるべきか迷う児童書なのだけど、本作において大事な脇を固めるキャラクター、クルマ(メカニック)が好きな魅力的な少女の存在から、私のクルマノエホンリストに加えることとした。

自動車エンジンをいじる少女ミサオ(「ジュンとひみつの友だち」より)
自動車エンジンをいじる少女ミサオ(『ジュンとひみつの友だち』より)

このお話、そのミサオ(操)のエピソードから始まる。彼女は高校2年生。小柄で、もの静かで、目が優しくて、声の透き通った表面的なイメージとは裏腹に、機械に強い女の子。小学3年生の頃には、壊れたオルゴールを分解して、音が出るように元通りにした。物置きにあった、古いオルガンを見つけて修理したのは6年生の時。折れたばねの補修を手伝ってくれたのは、隣町で小さな自動車修理工場を営むノブオ叔父さんである。中学生になると、叔父の工場に通い、中学2年の夏休みには芝刈り機をオーバーホールしてしまう。高校も本当は工業高校に進みたかったのに、親の反対で普通高校に。でも学校帰りには、叔父さんの工場へ寄って、作業服に着替えて、機械いじりを楽しむ。「機械ってね、ばらばらにしていくと、たいていはかちんかちんのかたいものでできているのよ。だけど、それを上手に組み合わせてやると、とっても柔らかくなるみたい。しっかり、かっちり、組み合わせるほど、全体は柔らかくなるわ。そこが不思議ね。」これが、叔父さんから3級自動車整備士の実力はあると太鼓判を押される少女の機械観だ。なかなか深い。

今でこそ、女性のメカニックも珍しくなくなったかもしれないが、こんな女の子がいたらちょっとびっくりするに違いない(現在は1万4千人以上の女性自動車整備士がおられるそうです[1])。でもそれは大人の先入観であって、読者である子どもたちにとって性別は無意味であり、少女が純粋に機械に触れる姿に、惹き込まれるのであろう。このようなジェンダー・フリーの表現手法は、宮崎駿アニメの主人公に通じるものがある。さてこの冒頭以降、この少女はほとんど物語に登場しないのだけれど、最後に再びその存在が意味を持つようになる。(エンストした車を修理する手際の良さは、とても女子高生とは思えません)

エンストした車を修理するミサオ(「ジュンとひみつの友だち」より)
エンストした車を修理するミサオ(『ジュンとひみつの友だち』より)

本題は、ミサオの弟である小学3年生の男の子ジュン(潤)と、彼の不思議なお友だちの話。小さい頃、近所に同じ年頃の男の子がいなかったジュンは、よくひとり遊びをしていた思慮深い子だった。もの静かで勉強もわりと出来たが、特に国語と図工はずば抜けていた。でも、スポーツやけんかも強く、皆から一目置かれた兄貴分のような存在。揉め事があると、互いの言い分を彼に聞いてもらうのである。

彼の家は、駅の東側、坂道と急な階段を登った先の丘の中ほどにある。丘の斜面をけずったところに建つ小さな家で、崖の下にはほんのちょっと平らになった“小庭”があった。昔防空壕のあった跡だ。今は穴は埋められている。佐藤さとるの物語は、だいたい彼の故郷、私の住まいもあるここ安針塚周辺をイメージしたものが多いので、何となくこの辺の特徴である「谷戸(やと)」の情景が思い浮かぶ。その小庭からは、向かいの丘の上に立っている高い送電線の鉄塔が1本、真正面に見える。ジュンは小さい頃からこの鉄塔を、“ダイスケ鉄塔”と名付けていた。ジュンにとっては、小庭は秘密の場所だった。

ある日、そのダイスケ鉄塔に向かって、大声で「やあい、ダイスケ。」と呼びかけた。すると、「いま俺を呼んだかい。」と、ジュンが会ったこともない1人の男の子が崖の向こうから現れる。この辺で知らない子はいないはずなのだが。小庭に横穴を掘ろうと思っていたジュンに、彼はほら穴より小屋を作れと提案する。その男の子はふっといなくなると思ったら、突然ジュンの前に現れる不思議な少年だった。ジュンが“ダイちゃん”と呼んだその少年の名前は『蜂山十五』といって同じ3年生、“ダイスケ鉄塔”の建つ向かいの丘に住んでいるという。

ダイちゃんに言われたとおり、ジュンは自分の小屋作りの構想・設計に没頭する。がらくた材料と道具を小庭へ運び、二人で一緒に小屋作りを始める。しかしダイちゃんは、「こんな仕事は、ゆっくり、じっくりやらなきゃだめだよ。」と言い残し、それから姿を見せなくなった。それでも1人もくもくと小屋作りを続けるジュン。屋根が出来たら、蜂山くんの家を探しに行こうと思うのだった。

ダイスケ鉄塔とジュン(「ジュンとひみつの友だち」より)
ダイスケ鉄塔とジュン(『ジュンとひみつの友だち』より)

やがて、天気のいい日に、ジュンは向かいの丘まで出かける。しかし、丘の住民に聞いても「蜂山」という家はどこにもない、ただ、この辺は昔から蜂山と呼ばれていたと言う。そして、この丘も新しい団地が出来るためになくなってしまうと。あのダイスケ鉄塔も一緒に…。

佐藤さとるの作品はどれもそうであるが、登場する子どもたちのプロフィール設定が実にうまい。それぞれの人物の緻密な内面描写が、読者をぐいぐいと惹きつける。ジュンの作ったプライベート小屋ほどではないが、私も子ども時代、友達と廃材を集めてきては、秘密の基地を作ったもので、自分の少年時代を懐かしく思い出す。このことは「わんぱく天国」も同様で、昭和に少年期を過ごした読者は誰もが、あのキラキラと輝いていた時代にワープするのではないだろうか。ダイちゃんの謎解きをする後半は、佐藤さとるファンタジーにミステリーの要素も加わって、上質のエンターテーメントを織り成す。

現実の安針塚にある鉄塔
現実の安針塚にある鉄塔

また、安針塚駅周辺の私の住処も、小山を切り開いて建設された集合住宅地なので、ここが「蜂山」のモデルではないかと勝手に妄想してしまった。文中にあった変電所もこの辺りにはあるし。安針塚在住の中年レトロなおやじにとって、過去と現在と空想世界が互いに交錯する不思議な感覚を楽しめる、ちょっとお得な作品であった。

大切にしたい佐藤さとる本
大切にしたい佐藤さとる本

この本を手に入れた同時期に、以前から探していた『わんぱく天国」の1970年初版本も入手。「わんぱく天国は花見処」で紹介し、既に所有していた佐藤さとるファンタジー全集第11巻には挿入されてない挿絵もあって、やはりオリジナル版はいいなと思った次第。本書と合わせて大切にしたい2冊である。

[追記]
この本のひみつが明かされる・・・「ジュンとひみつのお話

[参考・引用]
[1]女性のみなさん、カーエンジニアやカーコンシェルジュを目指してみませんか!!、学校法人日栄学園 日本自動車大学校ホームページ、http://www.nats.ac.jp/pc/shushoku/ladies.html
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