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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

魚を模倣するクルマ  

イワシの魚群

お天気に恵まれた先週末、子どもたちのリクエストもあり、久しぶりに横浜八景島シーパラダイス・アクアリゾートに遊びに行った。横浜といっても、横須賀との市境なので、車で2-30分程度。我が家にとっては、最も近い首都圏メジャー・レジャースポットの一つである。ママさんのお弁当も準備して一日楽しんで来た。もともと水族館好きのせいもあり、私自身もワクワク。お父さんの一番のお目当ては、巨大水槽に群れ泳ぐイワシの大群だ。

メインのアクアミュージアムに入って、ペンギンやアザラシ、北極グマなどの海洋性動物のコーナーを過ぎると、右手に突然、マイワシの群れを見ることのできる巨大水槽が現れる。高さ8m、水量1500tの巨大パノラマは圧巻。そこは、マリンブルーと魚たちが光に反射する銀色の世界だ。公称5万尾(館員さんの説明によると、同居するサメなどに捕食されて現在は3万5千尾程度なのだそうだ)のイワシが、他のイワシたちと適度な距離を保ちながら、巨大な塊となって同じ方向へ同じ速度で進む。しかし、その全体の動きは気まぐれで、刻一刻と進む方向や群れの形を変えていく。このゆらぎの光景に、入館者の誰もが足を止める。何時間見ても飽きない癒しの空間だ。群れで動く海の魚たちの映像を楽しめる『群れ萌え』というBGV-DVDもあるそうだ。魚も“萌え~”の対象になるとは驚きであるが、なんとなくわからないでもない。また、餌の噴き出す場所をコントロールしながら、この隊列を自在に操るスーパー・イワシ・イリュージョンも、見ごたえ十分。

魚の群れに萌え~
魚の群れに萌え~

こんなイワシたち(同じ水槽内のアジなんかも小規模ながら、同様な隊列を組む)を眺めていると、こんな大量な魚が、肩と寄せ合いながら、それなりの速度で泳いでいるにも関わらず、全くぶつからずに規則正しく泳げるのは何故なんだろうと不思議に思う。自動車がこんなイワシのように走ることができれば、事故を起こさずにスムーズに効率よく走行することができるのに。実は、そんなことを自動車会社も既に考えている。

昨年10月に開催された「シーテック・ジャパン2009」(※)に、日産自動車は「EPORO」という小さなロボットカーを出展した。日産の研究所で開発されたスタディモデルである複数台の「EPORO」が、衝突回避をしながら群走行を行う。この走行アルゴリズムが、前述の群れをなして泳ぐ魚の生態を模倣したものだそうだ[1][2]。

魚の部位
魚の部位[6]

魚のおもな周囲認識器官は「側線」と「目」。側線とは、魚の体の側面にある感覚器官で、水圧や水流の変化を感じ取る感覚器。自分が泳ぐことで発生する圧力波は、障害物にぶつかる事で変化するし、周辺の魚が動けば圧力波を発生する。側線細胞はいわゆる圧力センサーであり、これら水中の圧力の変化を察知して衝突回避をしているのである[3](補足:正確にはイワシ類には線状の側線はなく、体全体に同様の器官が散らばっているらしい)。認識された周囲情報によって、魚群は以下の3つの行動ルールによってふるまうと考えられている。

魚の行動ルール
魚の行動ルール[1]

1.最も自分に近い衝突回避エリア1に他の魚がいる場合、仲間の魚とぶつからないように進行方向を変えようとする。
2.1を取り巻く併走エリア2に他の魚がいる場合、仲間の魚との距離を一定に保つために並走しようとする。(速度を合わせようとする。)
3.さらに遠い接近エリア3に他の魚が離れた場合、仲間の魚と遠すぎるため、近づこうとする。

生物模倣の技術のことをバイオミメティクスという。個人的には非常に興味のある学問領域であるが、日産の癒し系ロボットカーは、魚の側線の代わりにレーザーレンジファインダーを、目の代わりにUWBという無線通信によるセンシング機能を使って、相手の距離や位置を計測し、この3つの規則を車両の制御アルゴリズムに応用しているのである。このアルゴリズムは魚の群行動を模擬した青木モデル[4]を参考にしているそうだが、「空飛ぶ自動車」でも紹介した、鳥が群れて飛ぶ自然なふるまいをシミュレーションするために、クレイグ・レイノルズの考えたBoidモデルと基本的な考え方は一緒である。ただし、魚は衝突回避のために瞬間的に90度の体かわしを行っているのだそうで、これをそのままクルマに適用すれば、常時スピンターンを繰り返さなければならない。これでは乗員の首が捻挫する。したがって、この衝突回避技術を現実的な制御に落とすための苦労があったようだ[2][5]。

日産「eporo」
日産「eporo」

ところで、このように自動車会社が魚を模倣してまで群走行にこだわる理由は何か。日産研究所の開発責任者、安藤氏は「広い道では車間距離を可能な限りゆったりと空けて、狭い道では安全性の確保できる範囲でキビキビと動かし渋滞を減らす。それが最終的な目的のひとつです。クルマでの移動には、もっと自由度を残したい。でなければ、パーソナルモビリティであっても未来のクルマ社会はつまらなくなってしまいます。」と語る。確かに安全性や効率性は、これからの自動化が進むクルマ社会に欠かせないものであるが、どんなに自動化が進んでも、クルマの本質である「移動の自由性」は決して無くなりはしないだろう。そういえば、水槽の中で規則正しく泳ぐイワシの集団の中にも、群れから離れて自由行動をしているイワシが少なからずいることも観察できた。まさに、このイワシの行動研究が、未来の車社会のヒントになるのかもしれない。

大水槽を上から覗く
大水槽を上から覗く@シーパラ

さて、シーパラでは、イワシを眺めながら未来のクルマ社会に妄想を広げていただけではなく、いろいろと楽しいことを発見できた。定番のアクアミュージアム以外にも、イルカの水族館「ドルフィンファンタジー」や、屋外でイルカや磯の海洋生物に触れ合える「ふれあいラグーン」もなかなかお勧め。今回、一番面白かったのは、バックヤード・ツアーに参加したこと。施設の裏側内部に潜入し、文字通り水族館の裏方のお仕事を見学できるツアーである。水量1500t、イワシの大水槽を浄化するろ過施設の大きさに圧倒され、その大水槽を真上から見たり、謎の研究実験室に入れてもらったりと1人500円で充実の30分。魚が出す排泄物や水槽に溜まった汚物は、きれいに処理されて、肥料や埋め立てに再利用されること、水族館で消費される餌の量は1日約1トンでさまざまな食材があること、コスト削減のために食材を洗う水は、水道水ではなく海水を汲み上げていることなども勉強になった。

おサッカーな選手権
おサッカーな選手権@シーパラ

アクアミュージアムでの特別展示「おサッカーな選手権」も旬な企画。サッカーのフィールドに見立てた水槽の中で、日本のブルーと予選リーグの対戦国のユニフォーム色の魚たちが、1日2回の「キックオフ」(食事タイム)で白熱した海中サッカーを繰り広げる、との触れ込みだ。日本の侍ブルーは、熱帯魚のナンヨウハギ。我々が見たときは「お食事タイム」ではなかったものの、オランダ代表キンギョハナダイやスウェーデン代表フレームエンゼルフィッシュが元気に泳ぎまわっていたのとは対照的に、我がナンヨウハギの元気のないこと。ゴールの中では横向きになって死にかけているヤツもいた。やっぱりおまえもか。今週からいよいよFIFAワールドカップ、結果を暗示しているようで悲しい!

日本代表の行く末を占うナンヨウハギ
日本代表の行く末を占うナンヨウハギ@シーパラ

(※)僕が生まれた1962年から開催されているアジア最大級の規模を誇る映像・情報・通信の国際展示会。毎年10月に幕張メッセで開催される。最近は電機メーカーからEVやハイブリット車関連が多数展示されるなど、将来の自動車技術は、東京モーターショーではなく、シーテックから発信されるようになるのかもしれない。



癒しのロボットカーの速度は魚よりも遅い。研究用なのでまだまだ非常にゆっくりである。この技術が本当のクルマに適用されるのは、いつになるのだろうか。

[引用・参考]
[1]日産自動車「CEATEC JAPAN 2009」出展概要-群走行するぶつからないロボットカー「エポロ(EPORO)」を開発-、2009年10月1日、日産自動車ホームページ、
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2009/_STORY/091001-01-j.html
[2]ただの癒しキャラではない『日産”EPORO”の正体』、NEXT STAGE、西村直人、p66-67、マガジンX、2010年3月号
[3]定訳魚の博物学、J.R.ノルマン・著、黒沼勝造・上野達治・共訳、p153、社会思想社
[4]A Simulation Study on the Schooling Mechanism in Fish、I.Aoki、日本水産学会誌、p1081-1088、1982、
http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/JASI/pdf/society/25-3663.pdf
[5]魚群ルールを適用した柔軟に環境適応する群走行制御、藤田他、334-20105017、自動車技術会春季学術講演会
[6]魚の部位について、山形県の魚たち
http://island.geocities.jp/mokoto_y_fish/F_bui.htm
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Posted on 2010/06/07 Mon. 21:23 [edit]

category: cars/車のお勉強

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