とらっく とらっく とらっく

本ブログを始めて100回めのクルマ絵本の紹介。絵本の紹介がブログ立ち上げの目的だったにも関わらず、約4年間でたったの100回とはちょっと寂しすぎるか。まあ、本業も家庭も持つ身なので、なかなか更新する時間もなく、クルマ絵本以外の話題に寄り道することも多くなったので、このペースとなってしまった。逆にこのマニアックなカテゴリーで100回もよくネタがあったとも言える。でも、ネタ素はまだまだある。私はこの深みにはまり、クルマ絵本の蔵書もすでに300冊を越えてしまった。まだ蔵書の1/3も紹介していない。新しいクルマノエホンの存在も日々是発見があり、どこまで膨らむのか恐ろしい気がするのだが、マイペースで気長に200回、300回と続けられたらと思う。日頃、私の駄文に目を通していただいている方も、今後も長い目でお付き合いいただきたい。

100冊め(1回で複数冊紹介したこともあるので正確ではないが)の紹介本は、「とらっく とらっく とらっく」(渡辺茂男・文、山本忠敬・絵、福音館書店《こどものとも》傑作選)。年明けからトラ(寅)ック続きなので、ついでといってはなんだが、このブログでもお馴染みの渡辺・山本黄金コンビによるトラック本の名作を紹介する。

本書の初版は1961年(昭和36年)、ほぼ私の人生と同じ年月読み継がれてきたロングセラーである。主人公は「のろまのローラー」にも出てきた、いすゞボンネットトラックTX-552型。トラックで配達先まで荷物を運ぶという単純明快なストーリーであるが、物語は表紙からすでに始まっている。輸入品であろうか、“TOKYO” (出発地は東京ということか)と印字された木箱をトラックに運び込む様子が描かれている。荷積みといえば、今ではフォークリフトが当たり前であるのだが、人力とは時代を感じさせる。乗員は2人。長距離トラックなのであろうと推測できる。

「のろまなローラー」”縦長”初版本
「のろまなローラー」”縦長”初版本

作者・山本氏自らの解説[1]によれば、本書はトラックのスピード感を視覚化するために、当時の編集者、松居直氏(のちの福音館書店社長)の英断によって、本を横長にし、主題を左から右へグングンと走らせることにしたのだそうだ。最近では珍しくない横長の絵本であるが、当時としては斬新な手法であったようである。余談であるが、「のろまのローラー」もこどものとも初版(’60年)では縦長であったが、’65年に横長に変わり現在に至る[2]。動きの表現が重要となるクルマ絵本では横長版で左右に車を流す手法が効果的であったことが伺える。特に2、3頁に描かれる“TX-552型”は[1]に解説されるような作者の意図どおりに、躍動感あふれる場面構成となっている。

「とらっく とらっく とらっく」(2-3頁)

このスピード感あふれるストーリーに、工事現場との遭遇による「徐行」と「停止」を(6、7頁)、消防車と救急車の場面では、右から左へとそれまでとは逆の流れを挿入(12、13頁)することで、単調となりがちな主題に絶妙なアクセントを加えている。ちなみに、消防自動車は「じどうしゃ」にも登場した消防ポンプ車の初期型モデル(恐らくいすゞTX61ディーゼルトラックベース)、救急車は[3]によれば、昭和30年、戦後における救急車の不足をカバーするために、日産180型のポンプ車を救急車に改造したものらしい。

「とらっく とらっく とらっく」(8-9頁)

懐かしいのは、9頁でタンクローリーが、鉄の鎖をじゃらじゃらと引きずっている場面。「電気の火花でガソリンが爆発したら一大事です」とある。タンクローリーでは、走行中にタンク内のガソリンが内壁と擦れあい摩擦電気が起こる。これが火花放電を起こすことを防止するために、昔はこの鎖で地面にアースを取っていた訳だ。現在は、タンクに静電気除去装置が付いているので鎖をぶら下げることはなくなったが、アースリールという巻き取り式のアースベルトは備えているそうだ[4]。

「とらっく とらっく とらっく」(14-15頁)

14-15頁では、道路は空間的には連続しているものの、左は夕暮れ、右は夜と異なる時間が描かれる。こうすることによって時間的経過を巧みに表現する。16-17頁では「もりたろうさんのじどうしゃ」でも紹介した「異時同図」の技法がすでに使われている。すなわち見開きの一場面の中に、現実ではあり得ない同じトラックを2台描くことで、時間の流れを一つの構図の中で表現し、トラックの動きを際立たせている。これら一連の描写は緻密に計算され、実にみごとだ。

最後にトラックは峠を超え、大きな町へ下ってくる。本書のための取材で、山本は東京から志賀高原まで8mmを回しながらドライブしたそうなので[1]、絵本の目的地は長野あたりであろうか。東京から長野、当時としてはずいぶんと長距離輸送であっただろう。それにしても積荷は何だったのか、やけに気になる。

以上のように本書は、クルマ絵本のみならず、動的な表現を伴う現代絵本では普通に使われている技法を約半世紀前にすでに試行錯誤し、完成させたという意味で、絵本のお手本のような本なのである。

[参考・引用]
[1]『とらっく とらっく とらっく』、山本忠敬の世界、
http://march-brown.sakura.ne.jp/jiputa/ehon/track-track-track.php
[2]のろまのローラー、1960年9月号、こどものともブログ、
http://fukuinkan.cocolog-nifty.com/kodomonotomo/1960/index.html
[3]消防装備史、p192-193、東京消防庁整備部監修、東京法令出版
[4]爆発しないタンクローリー、静電気、三基計装株式会社、
http://www.sankikeiso.co.jp/TechnicalInformation/InformationStaticElectricity.html
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