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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

車のいろは空のいろ  

車のいろは空のいろ(旧版)

娘は現在小学4年生であるが、4年生の国語の教材にたびたび取り上げられる定番の物語がある。それがこの「車のいろは空のいろ」(あまんきみこ・文、北田卓史・絵、ポプラ社)シリーズの中の「白いぼうし」という作品である。娘に聞くと、新学年が始まって一番最初の教材がこれだったそうだ。なので、その他の話にも興味をもって我が家にあった本シリーズを熱心に読んでいた。


「車のいろは空のいろ」シリーズは全3巻、「車のいろは空のいろ 白いぼうし」(旧版では「車のいろは空のいろ」)、「車のいろは空のいろ 春のお客さん」(旧版では「続・車のいろは空のいろ」)、そして「車のいろは空のいろ 星のタクシー」。いずれも7、8編の短編がまとめられている。タクシーものの児童書といえば、先に紹介した「きいろいタクシー」シリーズも有名だが、こちらは主人公、空色のタクシー運転手、松井五郎さんが不思議なお客さんに出会う、心あたたまるファンタジーになっている。

車のいろは空のいろ_その2

「白いぼうし」のストーリーはこうだ。松井さんは車道のそばに落ちている小さな白いぼうしを見つける。風がふけば車が引いてしまうと思った彼は、車を降りてぼうしを摘み上げた。その瞬間、中からモンシロチョウが飛び出してきた。ぼうしには園児の名前の刺繍。きっと、子どもがぼうしでチョウを捕まえた後、ここにわざと置いていたに違いない。逃がしてしまったと思った松井さんは、車の中に置いてあった夏みかんに白いぼうしを再びかぶせて、飛ばないように石を置いた。車に戻ってみると、後席にはおかっぱのかわいい女の子が座っていた。「菜の花横丁に連れてって」という。そこへ虫捕り網を持った男の子が母親と一緒に近づいてきた。女の子は、車を早く出してとせかす。小さな団地の野原に着いた時、松井さんがバックミラーを見るとあの女の子はいない。外を見ると、何十匹というモンシロチョウが飛んでいた。松井さんの耳には「よかったね。」「よかったよ。」という声がこだましていたのである。車の中には、かすかに夏みかんのにおいが残っていた。

この「白いぼうし」は“夏みかん”が非常に効果的に使われている。まずその季節感。ちょうど今時分の初夏の暑い一日を強調する小道具として生きている。また、冒頭のお客さんとの会話から、この夏みかんが松井さんの“田舎”から送られてきたもので、彼が地方の出身者であることを示唆させる。そして、チョウの代役としてのサプライズの役割。夏みかんのにおいも、読者が想像することで話に深みを持たせてくれる。車内のにおい消しに芳香剤が主流の現代であるが、季節の柑橘類を車内に置いておくというのも粋なアイデアかもしれない。ところで夏みかんのにおいってどんなだっけ?

車のいろは空のいろ_その1

60年代に幼少時代を育った小生にとっては、作品の中で描かれる情景も懐かしい。本書作品の大半が雑誌「びわの実学校」(「のせてのせて」参照)に初稿され、「白いぼうし」が本誌に掲載されたのが67年、私が5歳の頃だ。ちょうどその頃、私も団地に住んでいて(「パトカーぱとくん」参照)、周辺にはモンシロチョウの好きな菜の花畑やれんげ草畑、幼虫あおむしくんが大好きなキャベツ畑が広がっていた。なので、当時は本当に上記イラストのようにたくさんのモンシロチョウが舞っていた原体験がある(理科の教材としてキャベツ畑でモンシロチョウの卵やあおむしを探したことも懐かしい思い出だ)。本書を読むと、そんな時代にタイムスリップしたような感覚がある。

また、初夏の暑い日にも関わらず、松井さんも冒頭のお客さんも白いワイシャツのそでを、腕までたくし上げ、客の紳士に「冷房を入れましょうか?」の言葉もない。別の作品「すずかけ通り三丁目」でも冒頭で「じっとしていても、汗がふきでてくるような、真夏の午後です。」という下りがある。そう、松井タクシーにはクーラーがないのだ。この点も時代を表わしている。[1]によれば、冷房タクシーが東京都内で走り始めたのは1958年。東京での冷房化加速が報じられたのが1968年夏で、都内3万台あまりのタクシーの冷房車率が前年の1割弱から、8割へと急激に普及したのだそうだ。従って、本書が書かれた当時はまだ冷房車が一般的でなかったことが伺える。「白いぼうし」で夏みかんが松井さんの田舎から“速達”で送られてきたのも時代を感じさせる一例だ。

国語の教科書「白いぼうし」
国語の教科書「白いぼうし」

このように、現役の小学生にとっては、ところどころに違和感のある部分が存在する作品ではあるが、これほど長い年月に亘って、教材として使われていることを考えると、いかに普遍的な主題を扱っている作品であるかということであろう。

もうじき、終戦記念日がまたやってくる。あまんきみこの作品の多くは、やわらかな雰囲気を醸成させるものが多く、メッセージ性はそれほど強くない[2]。しかし、例外的に「すずかけ通り三丁目」は戦争をモチーフにしたもので、静かな語り口ではあるが、じわじわと作者の反戦への思いが伝わってくる作品となっている。夏休みのこの時期に、改めて子ども達に読ませてみるもいいのではないだろうか。

あまんきみこ
あまんきみこ

作者のあまんきみこ氏は、1931年、旧満州撫順市生まれ、大阪府立桜塚高校を経て、日本女子大学(通信)卒業。新日本童話教室第一期生。1968年、同人誌「びわの実学校」に掲載した短篇をまとめた『車のいろは空のいろ』を刊行し、日本児童文学者協会新人賞、野間児童文芸推奨作品賞受賞。『こがねの舟』(ポプラ社)で旺文社児童文学賞、『ちいちゃんのかげおくり』(あかね書房)で小学館文学賞、『おっこちゃんとタンタンうさぎ』(福音館書店)で野間児童文芸賞、『だあれもいない』(講談社)でひろすけ童話賞を受賞、「車のいろは空のいろ」シリーズ(全3巻)で赤い鳥文学賞特別賞、『きつねのかみさま』(以上ポプラ社)で日本絵本賞など多くの賞を受賞。

作画の北田卓史氏は、1921年東京都生まれ。東京工業専修学校機械科卒業。その後、絵本、児童出版物等の挿画執筆。絵本の作品に『もりたろうさんのじどうしゃ』『ぽっぽおーよぎしゃ』『山ねこおことわり』『トムとチム』シリーズ、挿絵の作品には本作以外に『チョコレート戦争』『さとるのじてんしゃ』などがある。1958、59年度日本童画会賞、1962年小学館絵画佳作賞受賞。1992年、没。

[参考・引用]
[1]運転手まついさんとその時代―文学史研究者が読む「定番教材」-、山本 一、金沢大学語学・文学研究、35、pp18-25、2007
[2]あまんきみこの世界―『車のいろは空のいろ』を中心にー、川北典子、平安女学院大学研究年報、第2号、pp25-33、2001

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Posted on 2009/07/26 Sun. 18:11 [edit]

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