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未来を走れハイブリットエコカー  

未来を走れ ハイブリッドエコカー

ハイブリット車の人気がすごいことになっている。5月度の自動車販売の結果によると、先月フルモデルチェンジとなったトヨタ・プリウスが1万915台で首位、2位には、ホンダ・フィットが入っているが、 3位はこれまたホンダのハイブリット車、インサイトが8183台で続いている[1]。特に首位の新型プリウスは、205万円の低価格の影響が大きいのか、先月の発売から1ヶ月で国内受注台数が18万台を超え、その勢いは止まらない[2]。5月18日に発表された新型プリウスは今回で3代目。初代プリウスが世界初の量産ハイブリットカーとして誕生したのが1997年。 ポルシェ博士が世界で初めてのハイブリットカー「ミクステ」を製造開始した1902年(発表は1896年)から約1世紀が経っていた。この初代プリウスの開発ストーリーを児童向けに書き下ろしたのが、今回紹介する『未来を走れ ハイブリッドエコカー』(後藤みわこ・文、河野一郎・絵、天野 徹・監修、世界を変えた日本の技術 科学読み物シリーズ1※、学研)である。

世界初の量産ハイブリットカー、プリウスの構想から完成までのストーリーであるが、上司から無理難題を突きつけられ、部下からは突き上げられる、モノはできたが動かない等々、開発現場ではよくある話が満載で、自動車がどのように企画され、商品になって世に出て行くかの開発過程もよくわかる、小学生の社会科の教材としても適した本になっている。世のお父さん方はこんな風に頑張っているのですよ と教えるにも良いだろう。

モデルとなった内山田竹志副社長
モデルとなった内山田竹志副社長
出典:https://response.jp/feature/sp/toyota-THS/act2/01/

とはいえ、そこは児童書、単純にプロジェクトX的な開発物語ではなく、SF仕立てで脚色されている。2094年の世界からテレパシーで人と話のできる一匹のカメ、ゴロタが、タイムマシンで20世紀末の日本へ来てしまう。ゴロタが迷い込んでしまったのは、1994年のトヨタ自動車。その未来のカメと最初に会話したトヨタの社員が、初代「プリウス」の開発プロジェクト”G21”のチーフエンジニア(CE)、内山田竹志氏(現、トヨタ自動車副社長)だった。彼の進めるプロジェクトを一緒に体験しながら、カメが元の世界に戻るための鍵を探す。実は初代プリウスの技術に、そのヒントが隠されていたのだった。

プリウス企画の源流である”G21”プロジェクト。GとはGeneration、そして21は21世紀の意味である。次世代のクルマのパッケージングを本気で考えろ。次世代の自動車というと、すぐにパワーソースの研究になるが、それだけじゃだめだ、「クルマ」もやり変えろ!当初はこのような意図で93年からこのプロジェクトは始まった[3]。「クルマ」の本質を革新する。しかし、まだハイブリットというパワーソースは登場しない。

和田明広
和田明広元副社長
出典:http://www.nikkei.com/article/DGKKZO94024940V11C15A1TZG000/

このプロジェクトを任された内山田CEは、当初「1.5倍の燃費向上」を目標に掲げていた。しかし、その企画書が開発指揮者である和田明広副社長(当時、現アイシン精機相談役)に却下され、「(従来比)2倍の燃費、すなわち28km/L車の市販化(量産化)」をコミットさせられる。パワーソースにはガソリン直噴エンジンも検討されたようだが、内山田氏は「実現させるにはハイブリットしかない」と覚悟を決める[4]。

技術は存在するものの、20世紀中の市販化となると・・・。当初、実現は無理だと思っていた内山田氏の背中を押したのは、ゴロタの一言だった。「誰かが作るのを待つのではなく、今、我々が作らなければ意味がない。」実際には、それまでハイブリッドを研究していたEV技術部門(電気自動車開発)を”G21”プロジェクトと合体し、総力を挙げてプリウスの開発にリソースを集中させたそうだ。研究段階からいきなり商品化のフェーズとは、その決断に恐れ入る。

最初のお披露目となる1995年秋の東京モーターショーに向けて、この21世紀の自動車の名前が決まる。その名は「プリウス(Prius)」。ラテン語で「先駆け」という意味で、まさに「21世紀を先駆ける」車となった。21世紀になってからではなく、20世紀中にプリウスの市販化を間に合わせたことは、戦略も見事だったし、何よりも難しいコミットを完遂させた開発技術者たちの仕事は賞賛に値すると思う。

初代プリウスの”亀”マーク
初代プリウスの”亀”マーク

さて、プリウスの物語の主人公にカメが登場するには意味がある。実は、本物のプリウスにも“カメ”は登場するのである。プリウスのセンターメーターには、バッテリーの力が落ちてきたとき警告灯が点灯するのだが、その警告灯がカメマークなのである。「ゆっくり走ろうね」という意味なのであろう。また、プリウスのエクステリアデザインも何かカメのようなずんぐりむっくりのカタチである。21世紀は、ガンガン飛ばしてエネルギー消費する走り方より、ゆっくり、のんびりエコ運転をしましょうという思いも、このカタチに含まれていたのかもしれない。

プリウスの走り方(ハイブリットシステム動作モード)
プリウスの走り方(ハイブリットシステム動作モード)(『未来を走れ ハイブリッドエコカー』より)

本書は、プリウスに採用されたパラレルハイブリット方式であるトヨタハイブリットシステム(THS)をはじめ、エンジンの駆動力で、タイヤとジェネレーター(発電機)を同時に動かすための肝となる駆動力伝達技術、プラネタリーギア(遊星歯車)の原理の話など、大人でもちょっと難しいと思われる技術にも言及している(この複雑な駆動力伝達の仕組みは、松のページというサイトでビジュアルに解説されているので参考にされるとよい)。その他、パラレルハイブリット技術ならではの技術課題、すなわち、走行中にエンジンを止めたり、始動させたりしなければならないのであるが、その際に発生する振動の問題、また電気自動車の基幹技術であるバッテリーやインバーター(バッテリーに電気をためるときに便利な直流と、モーターや発電するときに便利な交流とを変換する大事な装置)の熱問題など、ガソリン自動車と電気自動車のいいとこ取りに伴う、様々な問題点、難しさについての勉強にもなった。

作者の後藤みわこさんは、1961年名古屋市生まれ。春日井市在住。日本工学院専門学校放送制作芸術学科卒業。子育ての中で童話創作を始める。第17回福島正実記念SF童話大賞(2000年)を受賞した『ママがこわれた』(岩崎書店)がデビュー作。著書に『いのちがぱちん』(学研)、『もえて!デゥエット』(汐文社)、『ヘリウムなふたり』(朝日中学生ウィークリー)、『だいすきミステリー』(偕成者・共著)、『元気がでる童謡』(ポプラ社・共著)などがある。

主なエコカーの性能・コスト比較
主なエコカーの性能・コスト比較[5]

ところでハイブリット車というのは、「元を取れる」と思って買ってはいけない。「エコロジー」ではあるのだが決して「エコノミー」ではないことが、先日6/6付の日経の記事から読み取れる。会社でハイブリット談義をしていたとき、若手の社員が「面白い数字がある」と教えてくれたのがその記事[5]である。そこには、おもなエコカーの性能・コスト比較(上表)が載っていた。低価格で注目されたインサイトの電気・燃料費がキロ当たり4円、同じホンダのガソリン車であるフィットがキロ当たり5円。価格差は約70万円なのだが、燃料費は意外にも1円/kmしかハイブリット車にアドバンテージがない。

とりあえず何キロ走行したら「元が取れる」のか簡単な計算をしてみる。xkm走行したトータルコストでハイブリット車(インサイト)の方がガソリン車(フィット)を下回る場合を考えると、
189(万円)+4(円/km)×x(km)<119(万円)+5(円/km)×x(km)
答えはx>70万km
つまり70万km以上走行しないと、フィットに対してお得でないのだ。同様にプリウスでも47万km以上という計算になる。常識的にはこんなに長く車には乗れない。勿論、同じ車格での比較ではないので、一概に「エコノミー」ではないとはいえないものの、経済性を考えて小型低燃費車からハイブリットへの乗り換えはあまりメリットがない。CO2排出量では明らかにハイブリット車に軍配がある訳なので、やはり「環境への貢献」というエコロジー視点で購入されるといい。

初代プリウス
初代プリウス
出典:http://ecocar.autoc-one.jp/special/291915/

約10年前に初代プリウスが発表されたときは、制御も複雑なパラレル方式を採用し、コスト回収も困難だろうと思われたハイブリット車にあの儲けにうるさいトヨタが何ゆえ打って出たのか、勝算はないのではないかとトヨタの環境戦略に懐疑的だったが、本書を読むと当時の経営者、開発者たちの環境問題に対する先見性のみならず、自分たちが自ら新しい提案・行動を起こすといったそれまでのトヨタらしからぬ“攻めの戦略”の勝利かなと思うようになった。とりあえず、現時点においては。この勢いが一過性のブームで終わるのか、ハイブリットが今後の自動車のメインストリームとなり得るのか、しばし動向に注目していきたい。

※世界を変えた日本の技術 科学読み物シリーズ、天野 徹監修、全8巻↓どれも面白そうです!
2.ネット社会を彩るカラー液晶、宇津木 聡史・著
3.バーチャル世界のゲーム機、秋山 英宏・著
4.速さに挑戦する新幹線、石崎 洋司・著
5.ドーバー海峡を掘ったモグラマシン、田中舘 哲彦・著
6.世界の食生活を変えた奇跡のめん、上坂 和美・著
7.世界記録を生みだすシューズ、広岡 勲・著
8.人間の目を超えたカメラ、今西 乃子・著

[参考・引用]
[1]5月自動車販売 プリウスが1万台超でトップ、2009年6月4日、産経ニュース、
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090604/biz0906041118007-n1.htm
[2]発売1か月、新型プリウス18万台受注、2009年6月20日、読売新聞、
http://www.yomiuri.co.jp/atcars/news/20090620-OYT8T00229.htm
[3]プリウスという夢、家村浩明、双葉社
[4]京都議定書とプリウス、ECO Japan、
http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/column/shimizu/070105_prius/index1.html
[5]エコカー強みは、2009年6月6日、日本経済新聞
[6]プリウス・ドライビング・シミュレータ、松のページ、
http://www.wind.sannet.ne.jp/m_matsu/prius/ThsSimu/

未来を走れ ハイブリッドエコカー未来を走れ ハイブリッドエコカー
(2003/03)
後藤 みわこ

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Posted on 2009/06/27 Sat. 13:32 [edit]

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