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初夢 201X年のアメリカ自動車産業  

自動車産業の終焉

『201Xデトロイト。この年の北米国際自動車ショー(デトロイト・オートショー)は、アメリカ自動車産業の新たな幕開けの年といわれた。

今回最も注目されたのは、テスラ・モーターズが来年市販予定のEV(電気自動車)「ブルースター」だ。新型の大容量、急速充電可能なリチウムイオンバッテリーを搭載したこの量産セダンは、240Vの家庭用電源から、わずか3時間のフル充電で400kmの航続距離を持つ。1日4、50kmが平均走行距離であるアメリカでは、1週間程度は無給電で利用できる計算だ。出力は200kW(=272PS)、最高速度は250km/hとガソリン車のV6セダン同等の性能を持つ。価格は3万ドル(300万円)を切って月販1万台というチャレンジャブルな目標を設定している。将来的には日本、欧州向け販売も検討中で、テスラ社のグローバルな戦略EV車になりそうだ。

イーロン・マスク、テスラ・モーターズ会長
イーロン・マスク、テスラ・モーターズ会長

テスラ・モーターズ社は2003年、グーグルの創業者、ラリー・ペイジ、 セルゲイ・ブリンの両氏が出資して設立したベンチャー企業である。かの超人「ニコラ・テスラ」の発明した三相交流モーターを搭載することから、この社名は生まれた。会長はイーロン・マスク、自ら創業した決済サービス会社ペイパルを2002年に米インターネット競売最大手イーベイに15億ドル(1,500億円)で売却したことで有名となった人物である。

2008テスラ・ロードスター
2008テスラ・ロードスター

通常新車開発が4年かかるところを、イギリスのロータスで車体を設計し、設立5年後の2008年に、2シーターの量産スポーツEV、「テスラロードスター」を販売した。価格は10万9,000ドル(約1,100万円)で、主にアメリカのセレブ層に売れた。また、2010年に発表された価格が6万ドル(600万円)の量産セダン「ホワイトスター」も好評を博し、購買層が広がった。しかし、「あらゆる消費者の予算やニーズに合った電気自動車を提供する」というテスラ社の最終ビジョンはまだ達成できていなかった。この「ブルースター」がそのビジョン達成の鍵を握る[1][2]。

2008年の急激な経済不況により一時は経営が危ぶまれたこの新参者に、巨額の融資の手を差し伸べたのはグーグルとパシフィック・ガス&エレクトリック・カンパニー(PG&E)など米国の複数の電力会社であった。そして意外なところでは石油資本メジャーBPの傘下企業であるBPソーラーも名を連ねる。ベンチャー企業を積極的に支援し、大きく育てる土壌は、アメリカ経済の良さ、強さであるが、彼らがテスラ社に出資したのには思惑がある。

IT企業であるグーグルと電力会社には電力線ブロードバンドを使って、電力と情報を同時にクルマと家庭の間でやり取りをする構想がある。例えば、地図の代わりにグーグルのストリートビューをナビ画面に持ってくれば、リアルなナビゲーションシステムの完成である。目で見た風景と2次元の地図を頭の中でマッチングする必要はない。ナビ画面を見れば、フロントウィンドウ越しと同じ風景を確認できるのだ。利用者は家庭用パソコンで行きたいお店の情報をインターネットで検索、ストリートビュー上にGPSデータも含めたお店情報を入力する。また、自分オリジナルの音楽メニューを作成しておく。夜、充電をしている間に、電力と一緒にこれらの情報もクルマにダウンロードされる。翌日のドライブでは、お気に入りの曲を聴きながら、ストリートビューナビが、目的のお店までガイドをしてくれるといった具合だ。家とクルマが繋がれば、狭い車の中でめんどうな事前の設定作業をする必要がなくなる。この構想は、様々な情報が氾濫する現代のIT車両にとって、他にもいろいろな可能性を秘めているのだ。

太陽光発電でクルマと家がつながる
太陽光発電でクルマと家がつながる

真のゼロエミッション達成にとって、電気自動車普及の課題はライフサイクルアセスメント(LCA)からみたCO2抑制である。発電量においてアメリカの石炭火力の依存率は約50%といわれている。したがって、電気自動車そのものからは汚染物質は排出しないものの、充電する電気の発電まで含めたトータルではゼロエミッションとはならない。発電における“脱炭素化”を進めるには、CO2を排出しない原子力発電を増やすか、風力や太陽光などによる自然エネルギーの利用率を増やすことである。BPが世界有数の太陽電池メーカーであるソーラーレックスを買収した際に、買収の狙いはどこにあるのか業界の関心を集めた。BPは電気自動車の将来性に注目していたのである。電気自動車が普及すれば、家庭にも太陽電池パネルが必ず設置されると考えたのだ。アメリカの住宅は大きいので、生活するに十分な電力量を得られるパネルの面積を確保できるはずだ。余った電力は売電することもできる。「テスラ社は“脱炭素化”の広告塔になれる。」そう踏んだBPは来たるべく“石油後の世界”に向けて着々と準備を始めていた。

このモーターショーで最大の展示ブースを誇るのは、今や世界一の自動車会社となったトヨタ自動車。その展示スペースの一角に、トヨタの一ブランドとなったGMが今年から販売する「アストロ・プラグイン・ハイブリット・ミニバン」と「コルベット・プラグイン・ハイブリット・スポーツ」の2台を展示していた。搭載された動力システムは当然ながらトヨタ・ハイブリット・システム(THS)であるが、テスラ社のEVと同様に専用の充電施設を必要としないプラグイン方式を採用した新システムであった。

金融支援を求めるビック3首脳(2008年)
金融支援を求めるビック3首脳(2008年)

2008年、急速な経営不振に喘いでいたGMは、政府の緊急つなぎ融資でとりあえず延命を図ったものの、破綻は時間の問題であると誰もが思っていた。融資条件であった2009年3月末発表の再建計画にも説得力はなく、株価の暴落(といえるほど価値があった訳ではないが)と融資打ち切りにより米連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用を申請、事実上経営破綻した。

経営破綻後の再建を任されたのはトヨタ自動車であった。「任された」と書いたのは、この救済が経済的理由というよりは日米の政治的理由によるものだったからである。2008年度末に創業以来2度目の赤字決算報告をしたトヨタであったが、もはやGMを救えるのは世界広しといえどもトヨタ以外には有り得なかった。単年度では赤字を計上したとはいえ、同じ業界のエクセレントカンパニーであり、内部留保金、すなわち保有する利益が13兆円を超える技術的にも財務的にも体力のあるトヨタしか選択肢はなく、日米とも新政権になったばかりのオバマ大統領と小沢首相の話し合いで決着がついた。環境技術の雄トヨタに再建を委ねることは、オバマ大統領の掲げた「グリーン・ニューディール政策」にも、それに呼応して提唱された「日本版グリーン・ニューディール政策」にも合致する判断だった。

トヨタから経営陣が送り込まれ、8つあったGMブランドもGMという1つのブランドに統廃合、GMはトヨタグループ傘下に下野した。大幅な人員削減と工場閉鎖という痛みを伴ったものの、内燃エンジンオンリーのモデル開発は止め、トヨタブランドも含めた今後開発される全てのモデルにトヨタ・ハイブリット・システム(THS)を搭載するという攻めの中長期経営計画が発表された。そのGMブランド第1陣がこのハイブリット「アストロ」と「コルベット」であった。

GM EV1
GM EV1

GMの強みであったEVや燃料電池開発を中心とした研究開発部門もトヨタの軍門に下り、トヨタの先進技術の研究開発体制は万全かのように見えたが、特にEVや燃料電池に関わった優秀な技術者の多くは、前記のテスラ社がヘッドハンティングしたといわれた。EV1はGMが1990年代に開発・量産した電気自動車であったが、生産コストの課題から2003年にEV1の計画を中止してしまう。テスラ社の起業や、日産、三菱、スズキなどが2008年以降、EV開発にシフトし、2010年以降に多くのメーカーがEVの市販化を始めたことを考えると、あの時、計画中止という経営判断をせず、逆に経営破綻の大きな要因となった大型SUVへの開発投資を止め、思い切ってEVでのリーダーを目指していれば、GMの今日の姿は変わっていたかもしれない。歴史に“IF”は禁物だけれども。

ビッグ3のもう一方の雄、フォードはどうなったのか?フォードは経営破綻を免れたが、もはや単独で存続できる体力は残っていなかった。GMの経営破綻以上に、2009年の経済界のビックニュースは、フォードとゼネラル・エレクトリック(GE)の異業種経営統合であった。車の動力源が化石燃料からハイブリットやEV、燃料電池など電化へ移行することはもはや避けられないパラダイムシフトである。そんな中で、クルマの電動化に資源集中を図りたいフォードと、クルマの電気・電子部品に新しい活路を見出そうとしているGEの思惑が一致した提携であった。両社の持ち株会社は「エジソン・フォード・モーター」。

終生の友であった発明王「エジソン」と自動車王「ヘンリー・フォード」は、1896年にエジソンの会社のパーティ会場で初めて出会う。当時、フォードはエジソンの照明会社のエンジニアとして奉職していた。パーティーでエジソンに出会う機会を得たフォードは、尊敬する発明王エジソンに自分の自動車に掛ける熱意を語った。電気自動車の研究を行っていたものの、当時の技術では実用に適さないと判断して電気自動車の研究と商業化から手を引いていたエジソンもまたフォードの情熱を認め、「これからはガソリン自動車の時代だ」とフォードを励ました[3]。そんな彼らの興した会社(GEは、1878年のエジソン電気照明会社が出発点で、この会社を吸収したエジソン総合電気とトムソン・ヒューストン・カンパニーが合併して1892年設立[4])が、約1世紀後にエジソンが断念した電気自動車の開発で協力することとなった。

トーマス・A・エジソン ニコラ・テスラ
(左)トーマス・A・エジソン(右)ニコラ・テスラ

同じ頃(正確には1880年代後半)、送電網で交流と直流の争いを行った「テスラ」と「エジソン」。彼らの名前を冠した会社が、1世紀の時を越えて再び電気自動車で覇権争いを行うというのも、歴史のいたずらであろうか。

そのエジソン・フォード・モーターは、4輪独立イン・ホイール・モーター搭載のEVコンセプトを展示している。このコンセプトモデルは2、3年後に市販化される予定だ。

ビック3のもう一角、クライスラーも2009年に経営破綻したが、提携関係にあったルノー・日産のカルロス・ゴーンは結局動かなかった。北米でのパートナーを得たいゴーンであったが、2008年以来の経済不況でかつての勢いを失った日仏連合は、再建に必要なキャッシュを確保できなかったのである。そこで手を上げたのが中国企業であった。経営難に喘ぐのは中国企業も同じではあったが、国策として自動車産業を一騎にトップレベルに引き上げたい中国政府の資金的バックアップがあったからだ。

ビック3の一角を仮想敵国の中国政府に売り渡したのは、国家安全保障の戦略上、オバマ政権の失策であるという批判も、特に筆頭株主であった未公開株投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントを中心に挙がったが、アメリカの面子を保つだけの基礎体力は、このときアメリカ政府にもなかったのである。』

以上は、年末年始に読んだ「自動車産業の終焉(原題は“The Global Race to Fuel the Car of the Future”)」(イアン・カーソン、ヴィジェイ・V・ヴェイティーズワラン・共著、黒輪篤嗣・訳、二見書房)にインスパイアされて、201X年のアメリカ自動車産業の予想図をシナリオライティングしてみた。

本書はクルマに対して古い価値観を持つ古参の自動車、石油業界が“脱石油”“脱炭素化”に向けてどのような取り組みをしようとしているのか、クルマに対して新しい価値観を持つITなどの新しい業界、新参者がどのような変革に挑もうとしているのかをまとめたものである。巷によくある将来クルマ業界がこうなると予想した本ではない。一連の経済不況が起こる前に書かれたものなので、状況はかなり変わってしまっているし、若干網羅的過ぎて、結論がぼやけてしまった感はあるが、それだけクルマ業界が混沌として、誰にも予測不能な状況になっていることを表わしている。あまり知らなかった業界動向の情報も得られて、読み物としては面白かった。それにしても、原題を直訳すると「未来のクルマをかき立てるグローバルな競争」、内容的にも自動車産業の大変革に期待を込めたポジティブなものと理解したが、「自動車産業の終焉」というネガティブタイトルは、いかにもありがちなビジネス書という訳でいただけない。

それはさておき、私の初夢なので、何の根拠もなく思いつき、デタラメの駄文である。他にも普及可能性のあるディーゼルエンジンや、バイオ燃料、エタノール、天然ガス(CNG)などの代替燃料エンジン車については全く言及していないし。あくまで新年早々の洒落ということで。

2009年、実際の自動車業界では何が起こるのであろうか。目が離せない。

[参考・引用]
[1]米国セレブに大人気の電気自動車テスラ・モーターズ、東洋経済、2008/07/11、
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/2ae333b4382b7c26cd0ce9c53a386394/
[2]夢のエコカーが発進 シリコンバレー発の自動車革命、NBonline、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070817/132303/
[3]エジソンの数奇な出会い、偉大なる発明家トーマス・エジソン、
http://www.edisonworl10.com/person/rival.html
[4]ゼネラル・エレクトリック、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%8D%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF
[5]自動車産業の終焉、イアン・カーソン、ヴィジェイ・V・ヴェイティーズワラン・共著、黒輪篤嗣・訳、二見書房

自動車産業の終焉自動車産業の終焉
(2008/07/01)
イアン・カーソンヴィジェイ・V・ヴェイティーズワラン

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Posted on 2009/01/08 Thu. 22:14 [edit]

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