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クリーンディーゼル  

クリーンディーゼル車 日産エクストレイル20GT

先日、日産自動車から新型 エクストレイルのディーゼル仕様(上写真)が発売された。このクルマは自動車や環境の業界内では少し話題となっている(先の米海軍空母も動力源はクリーンディーゼルでいいんだけどなあ)。プレス発表によれば、「国内のポスト新長期規制を世界で初めてクリアしたクリーンディーゼル」と謳っている[1]。1999年に石原都知事の、あのペットボトルパフォーマンスによって「ディーゼル=(環境の)悪者」と刷り込まれてしまったディーゼル車がいかに進化したのか、ディーゼル機関の生みの親、ルドルフ・ディーゼルの生誕100周年を迎える今年に少し勉強してみようと思う。

私も昔は日産テラノのディーゼルターボ仕様に乗っていた経験があるが、そもそも乗用車の大半を占めるガソリン車と、商用車や大型車の大半を占めるディーゼル車とでは何が違うのであろうか。まず、燃料がディーゼル車は軽油、ガソリン車はガソリンと異なる。両燃料の違いは着火と引火温度の差である。軽油は自分で自然発火(自己着火)する温度が低く(ガソリンは450度前後、軽油は350度前後)、ガソリンは引火する温度が低い(ガソリンは-25度以上、軽油は50度以上)。軽油は周囲の温度が高いと燃え易く、ガソリンは周囲に火元があると燃え易い。この使用する燃料の性質差は、両者の内燃機関の特徴をそのまま反映する。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い[8]

このおとだれだ?」でも説明したように、一般的な内燃機関は①吸入②圧縮③爆発④排気の4サイクル(行程)を持つ。両者はこの爆発工程が大きく異なる。ガソリン機関は吸入工程で低温で引火し易いガソリンと空気(燃料を燃やすには酸素が必要なので)の混合気を燃焼室に注入し、圧縮後、爆発工程でプラグによるスパーク放電(火花)で引火させて混合気を爆発させる。スパークが火元となるため、そこを起点に燃焼(爆轟波)がシリンダー内に徐々に伝達する。一瞬のうちに爆発燃焼を起こさなければならないので、ピストンを押し下げる量(排気量)には限界があり、大排気量の大型車には不向きだ。しかし、燃焼が一様に広がるので静粛性がよい。

一方、ディーゼル機関は吸入工程で空気のみを燃焼室に注入し、ガソリンよりも圧縮比を高めて空気を高温化する。そこへ、低温で自然発火しやすい軽油を噴射する。すると軽油は自己着火し、爆発を起こす。徐々に燃焼を起こすガソリンと異なり、ディーゼルは一気に至るところで燃焼を起こすので、ピストンを押し下げる量を大きくすることができ、大型トラックなどに適している。反面、その結果としてディーゼル特有の“カラカラカラ”といった不均質な騒音が発生することになる。

ガソリンエンジン型打ち上げ花火 ディーゼルエンジン型打ち上げ花火
(左)ガソリンエンジン型打ち上げ花火(右)ディーゼルエンジン型打ち上げ花火

ドーンという一発ものの打ち上げ花火がガソリンで、バリバリバリと複数の小さな花火が散らばる打ち上げ花火がディーゼルといえばわかりやすいか。このたとえで言えば、ガソリン花火は、一様な球体できれいだが、すぐに仕事が終わってしまい非効率だ。一方、同じ火元(エネルギー)でたくさんの花火を長く爆発させることができるので、ディーゼル花火の方がうるさいが仕事の効率はよい。これがディーゼルの最大の武器だ。熱効率(投入した熱エネルギーが仕事や電力などに変換される割合)でいうと、ガソリンが約27%に対して、条件にもよるがディーゼルで最大約38%となる。燃費のよいディーゼルエンジンの理由である。でも、ディーゼルでさえ6割以上の熱エネルギーがピストンを動かす仕事に使われずに捨てられてしまうことを考えると、本当にもったいない。

また、“クリーン”といわれるからにはエミッション(排出物)が問題となる。エンジンからのエミッションには主に、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、PM(浮遊粒子状物質)、CO2(二酸化炭素)といわれている。CO2以外は人体に悪影響を与える有害物質であり、CO2は地球温暖化を促進する物質、いずれも排出量は少ないに越したことはない。

COとHCは混合気における燃料の割合(空燃比)が小さい、すなわち燃料が薄く、酸素が十分で完全燃焼できる場合は発生しにくい。ディーゼルエンジンは空気の量が多く、常に完全燃焼できるのでほとんど発生しない。大半はガソリンエンジンからの排出である。一方、NOxは大気中のN2(窒素)とO2(酸素)が熱によって結合し、燃焼温度が高いほど生成しやすいので、空気の量が多いディーゼルは、N2もO2も十分にある上、完全燃焼できるので、燃焼温度も高くNOxを生成しやすいというデメリットがある。

スス入りペットボトルを振る石原都知事
スス入りペットボトルを振る石原都知事

PMは通称パーティキュレート(Particulate Matter)と呼ばれているもので、例の石原さんのパフォーマンスで有名となったスス=黒煙が代表。ガソリンのように最初から空気と燃料を均質に混ぜた混合気を燃焼させるとススは少なくなるのだが、一気に燃焼するディーゼルでは、空気と燃料が混ざる前に燃えてしまい、燃えカスが残ってしまう。その他PMとしては、トラックなどの白煙として排出されるオイルの燃え残りのSOFや、軽油中の硫黄分から生成されるサルフェート(硫酸化物)等を示す。これらは発ガン性も懸念されるディーゼル特有の排出物質。

ガソリンに比べCO2排出が少ないのは、ディーゼルのメリットといわれる。最初に述べたようにディーゼルエンジンは熱効率が良い=燃費が良い。CO2は、燃料の炭化水素(HC)と酸素(O2)との燃焼で生成されるため、燃費が良いということは単純に同じ後続距離におけるCO2の生成量が少ないということだ。

日産クリーンディーゼルエンジン
日産クリーンディーゼルエンジン

で、日産のクリーンディーゼルは従来に比べ何が優れているのか?そのおもな技術のポイントは、
(1)低温で予混合する燃焼方式
(2)HC・NOxトラップ(罠)触媒技術
(3)精密にエミッションをコントロールする制御技術

先に述べたように、ガソリンのように空気と燃料が均質に混ざった状態で燃焼すれば、悪玉の燃えカスであるススなどの発生は抑制される。またNOxは低温で燃焼すれば生成されにくい。この両方のメリットを取り入れたのが(1)の技術である。開発者の一人、日産の木村修二さんの言葉を借りれば「燃焼タイミングを遅らせることで、燃料と空気が予め混合する時間を稼ぐ。」燃焼タイミングを遅らせるために、ピストンが圧縮工程から少し下がったところで燃料を噴射することと、排気ガスを再循環させたEGRガスを入れて積極的に温度を下げている。これによって予め空気と燃料が混ざった混合気が、通常より低い温度で燃焼する。自己着火を除けば、ほとんどガソリン燃焼といってもおかしくない。ガソリンとディーゼルのいいとこどりの燃焼ということになる[4]。

HC・NOxトラップ触媒技術の原理
HC・NOxトラップ触媒技術の原理[7]

自動車とノーベル賞」で勉強した従来の三元触媒に、NOx、およびNOxと同じく排ガス規制物質であるHCの両方を異なる層に吸蔵、還元するという点が、(2)HC・NOxトラップ触媒の特徴だ。通常走行時はリーンバーン(希薄燃焼)状態で、HCとNOxがそれぞれのトラップ層に蓄積されていく。有害物質が飽和に近づいてきたら、エンジンを一瞬NOxが発生しないリッチ燃焼(燃料を多量に噴射し、わずかに燃料が燃え残る制御)で運転し、そのさいに発生するHCに、さらに微量のO2を混ぜて供給する。この両者が反応することでNOx浄化層にH2とCOが生成される。そこに既に蓄積されたNOx、HCをリリースして反応させ、無害物質であるH2O、N2、CO2に還元する[5][7]。ウーン、わかったような、わからないような化学のお話。

これらの能力を最大限に引き出すには、(3)高精度なエンジン制御が不可欠。これは日本メーカーお得意の分野である。詳細は割愛する。

ということでこのディーゼル車、どれくらいのご利益が得られたのか。現在の国内排気ガス規制は、2005年導入の新長期規制、このNOxとPMの排気基準が強化されるのが2009年施行のポスト新長期規制である[6]。今回のエクストレイルディーゼルは、この09年規制を前倒しでクリアしたということだ。しかし、世界レベルでみるとさらに厳しい2008年導入の欧州のユーロ5(Euro5)」規制や2009年実施の米国TierⅡBin5規制がある。既に欧州で2007年に市販化されているエクストレイルは、ユーロ4が規制対象となっているので問題ないが、ユーロ5やTierⅡBin5はクリアできるのか?日産広報資料によると、日産クリーンディーゼル技術は米国のTierⅡBin2規制値と同等のポテンシャルを持っていると言う[7]。「Bin」は米国連邦環境保護局(EPA)の規制値の難易度で、「Bin1」になるとカリフォルニア州規制のPZEV(部分的ゼロエミッション)に相当し、「Bin0」はカリフォルニア州規制ZEV(ゼロエミッション)相当の電気自動車や燃料電池車となる[4]。「Bin2」だとカリフォルニア州規制のSULEV(Super Ultra Low Emission Vehicle)相当で、大気並みにクリーンなレベルなのだそうだ。排気管に口を近づけて排気ガスを吸っても大丈夫ということだろうか?

ホンダのクリーンディーゼルエンジン
ホンダのクリーンディーゼルエンジン

このように規制が厳しくなると、他社もだまってはいない。09年以降、ホンダや三菱もクリーンディーゼル車の市場投入を計画しているという。ディーゼル車に厳しいイメージを持つ日本。まずは初陣、日産エクストレイルが市場でどう評価されるのか、お手並み拝見といったところなのだろう。通勤距離の長い小生、カングーの後継車にディーゼル車も選択対象となりうるか、今後の動向に関心を持っている。

次回はこのディーゼル機関の発明者、ルドルフ・ディーゼルの伝記本を紹介する。

[参考・引用]
[1]日本の厳しい排出ガス規制「ポスト新長期規制」に適合したクリーンディーゼル エクストレイル「20GT」を追加、2008年9月4日、日産自動車ホームページ、
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2008/_STORY/080904-02-j.html
[2]ディーゼルエンジン[ディーゼルNO?YES?]、柿沼義彦、山海堂
[3]ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い、クルマ生活Q&A、webCG、
http://www.webcg.net/WEBCG/qa/engine/000012338.html
[4]第22回世界一クリーンな日産のディーゼル技術、人とクルマと地球の良い関係!、清水和夫、日経Bpnet、2007年10月23日、
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/column/shimizu/071023_cleandiesel/index.html
[5]日産先進技術『SU-LEVディーゼル』…大気並みの排ガス性能、2007年8月24日、レスポンス、
http://response.jp/issue/2007/0824/article98282_1.html
[6]ディーゼル自動車、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A
[7]クリーンディーゼル技術、日産自動車、
http://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/TECHNOLOGY/TECHNICAL/CLEAN_DIESEL_JP.pdf
[8]よくわかる!技術解説、環境にやさしいディーゼル車を目指し大気汚染のもととなる排ガス低減へ、NEDO、
http://app2.infoc.nedo.go.jp/kaisetsu/evm/evm06/index.html
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Posted on 2008/09/30 Tue. 21:02 [edit]

category: cars/車のお勉強

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