まほうのクルマ工場

クルマと環境を論じる場合、CO2や排気ガスの問題だけではない。もう一つの大きな課題が“ゴミ”の問題である。使わなくなった車をどうするか。昔のように粉砕、廃棄、焼却していたら、廃油やシュレッダーダスト(※)による環境汚染が進むし、資源の無駄である。何よりもこの狭い国土に大量の車両を捨てておく場所もない。そこで車、あるいは車の部品や材料の再利用を考えることになる。各自動車メーカーは、この課題解決にも多くの労力を費やしている。そんな自動車のリサイクル、リユースを子供向けに紹介する絵本が、「まほうのクルマ工場」(金城正信・制作、日刊自動車新聞社)である。

(※)工業用シュレッダーで廃家電や廃自動車を破砕し、金属などを回収した後に、産廃として捨てられるプラスチック・ガラス・ゴムなど破片の混合物。水銀・鉛・カドミウムなどの重金属や有機溶剤等を含み、環境汚染の可能性が高い[1]。

ある日、クルマ好きのサイ君が大事に乗っていたクルマが動かなくなってしまった。クルマ屋に相談してみても「もう無理だ」という。新しいクルマを買うこと決めたサイ君だったが、廃棄場に捨てられたクルマの山を見て、自分の愛車があんな姿になることを悲しんだ。そんなとき、ひとりのおじさんが現れる。

「まほうのクルマ工場」その1

彼が自分の工場にサイ君を連れて行くと、「ここは古いクルマをよみがえらせる場所だ」という。たくさんの古いクルマ、部品がきれいに並べられている。部品は古いクルマから機械で取り外している。そう、そこはクルマの再利用、“リユース”工場だった。さらに、クルマの中の油やフロンガスが抜き取られる。最後に残ったクルマをスペシャル機械に入れると鉄とアルミに分別される。そしてこれらが新しいクルマの原料となる、“リサイクル”の過程が紹介された。

自分の愛車がこうやって再利用されることを知ったサイ君は、安心して新しいクルマを買い換えることができた。もちろん、この魔法使いのようなおじさんとその工場に感謝して。

自動車にはどれくらいの種類の材料が使われているだろうか。自動車を構成する三大材料は鉄、アルミに樹脂材だ[2]。その他タイヤなどのゴム材に、窓のガラス材。「自動車とノーベル賞」の項でも紹介したが排気浄化装置の触媒には希少金属の白金等も用いられる。今や自動車に欠かせないセンサーに多用されるのはセラミックスだ。勿論、燃料や冷却液、エアコン冷媒のフロンなどもある。

大量の廃車

これら大量の材料を消費する工業製品が自動車である。自動車は、全世界で年間約6,900万台、日本だけでも年間約1,100万台生産され[3]、使用済車両500万台の実に約400万台が廃棄されている(100万台は中古車として海外へ輸出)[4]。自動車を「作る」という観点からいうと、これらの部品の原材料の大半が有限な資源鉱物であり原油である。このまま使用しつづければいずれ枯渇する代物であり、採掘にも環境破壊が伴う。また昨今、鉱物資源や原油が高騰しているように、各国の国家戦略や投機の対象にもなり得るので、価格も大きく変動し経済にも多大な影響を与える。自動車を「捨てる」という観点でいえば、車がゴミになると産業廃棄物になる。上記のように年間の使用済車両400万台の約80%は業者により分別されてリサイクルに回るが、残りの20%である約70万tが自動車用シュレッダーダスト(ASR;Automobile Shredder Residue)として発生、大半が埋立処分されている。環境汚染の問題から地域住民の反対もあって、この産業廃棄物の処理場は不足しているのが現状である[4]。また、フロンの大気中の放出が、オゾン層の破壊を進めることは周知のとおり。

このまま人類がこのような大量生産・消費活動を続けるとしたら、いずれ地球は破滅の道しかない。とはいっても、自動車の使用を止めるわけにもいかない。ならば”持続可能な”社会になるには、「作る」から「再生利用する」(リサイクル・Recycle)、「再利用する」(リユース・Reuse)に、「捨てる」から「減らす」(リデュース・Reduce)に変換していかなければならない。これが資源循環型社会構築のための3Rといわれる、これからの行動様式である。この3Rを具体的な活動に落とすために、自動車リサイクル法が2005年1月からスタートした。

経済産業省発行「みんなで実行3R」より
経済産業省発行「みんなで実行3R」より

この法律は、リサイクルに関わるクルマの所有者、関連事業者、自動車メーカーが三位一体となって役割を担う法律である。ユーザーは、リサイクル料を払って廃車を業者に引き取ってもらう。関連業者は「フロン類」と爆薬などが装填され処理の難しい「エアバック類」、「シュレッダーダスト類」の3つの“ゴミ”を回収し、自動車メーカーに引渡し、メーカーはこれらのリサイクルを行う[5]。そして上記で示した使用済自動車のリサイクル率80%を限りなく100%に近づけようとするものである。

クルマ社会も循環型
クルマ社会も循環型

本書のように自動車を題材に資源循環型社会(3R)を子供たちに理解・学習させるのはちと難しいかもしれないと思ったが、身近な生活に当てはめ直してみればいい。読み古した新聞や雑誌は、トイレットペーパーや段ボールにリサイクルされること、君たちの絵本や洋服も古本や古着でリユースしていること、お菓子も過剰に与えない、これもゴミを出さないリデュースのためだ。まほうを使えればいいのだけれど、当たり前に走っている自動車もこんな知恵と努力によって循環しているということを知って欲しい。巻末にこの本の原案・制作者の金城正信さんが紹介したフランスの小学校で行われている環境教育の事例が興味深かったので、ここに引用しておく。

「フランスのある小学校では、真夏の深夜零時に夜間のミニ登山を実施したそうです。海中電灯の光を頼りに頂上の広場にたどり着くと、空には満天の星が広がっていました。暗闇で聞き耳をたてると、静けさの中から虫や鳥たちの鳴き声が聞こえてきます。子供たちは、夜の自然の素晴らしさにすっかり魅了されてしまいました。夜明けを待って。「辺りを見渡して、この場所にあるのが不自然なものを集めてごらん」と伝えます。すると子供たちは、ビンや缶、ビニール、プラスティック容器などのゴミばかりを集めてきました。すべて自然界に有るはずのないものです。美しく豊かな自然の中に身を置いたとき、子供たちはその大切さを肌で感じ、自然環境を乱すものを本能的に排除しようとしたのです。この話からも、環境教育を一方的に教えるより、気づきを促すことが重要だとわかります。」

なんとも羨ましい、そして実にアイデアに満ちた教育方法であろうか。気づきを促し、自主的に学ばせる仕掛けは非常に参考になる。それにしても、われわれ教育する側の大人たちが、どれくらい3Rを意識して生活しているのか懐疑的になった。

金城正信
金城正信

制作者の金城正信氏は、愛媛県で総合リサイクル業を営む金城産業㈱の代表取締役社長。自動車リサイクルとしては、グループ企業愛媛オートリサイクルも経営。ホームページには、3Rに「断る」(リフューズ、Refuse)と「修理する」(リペア、Repair)を追加した5Rをゼロエミッション社会のキーワードであることを提唱するバリバリの環境企業経営者だ。家業が金属リサイクル業だったが、大学卒業後、広告代理店でイベントに携わっていきたいと思っていたのが父親と見学した製鉄所を見てから一転、家業へ。日本青年会議所に出向し、国連大学でゼロエミッションについて学ぶとともにドイツへの環境ミッションに参加する。これを機会に循環型の社会を作るために貢献したいと考え、市民活動をはじめNPOに積極的に関わるとともに事業活動にも取り組み始める。現在は環境NPOエコステーション松山の理事長もされており、前出のフランスの小学校の事例のように子どもの頃からの環境学習の重要性を考え、この団体の活動の中で本書を制作されている。また、2004年から「坊ちゃんスタジアムをプロ野球の本拠地にする会」を設立し代表として坊ちゃんスタジアムをプロ野球の本拠地にする活動に取り組んでいる[6]。これらの行動力には脱帽。

本書の購入はこちら(日刊自動車新聞)から↓
http://njd-books.online-store.jp/i-shop/product.pasp?cm_id=62239&cm_large_cd=9&to=pr

[参考・引用]
[1] シュレッダーダスト、EICネット、
http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%A5%B7%A5%E5%A5%EC%A5%C3%A5%C0%A1%BC%A5%C0%A5%B9%A5%C8
[2]自動車素材の変遷、高 行男、JAMAGAZINE 、2006年3月号
[3]世界各国/地域の四輪車生産台数、JAMAホームページ、
http://www.jama.or.jp/world/world/world_t2.html
[4]第5章リサイクル技術、p40、自動車技術ハンドブック(9)整備・リサイクル・LCA編、中山 弘他、(社)自動車技術会
[5]自動車リサイクル法とは、経済産業省ホームページ、
http://www.meti.go.jp/policy/automobile_recycle/about/recycle/recycle.html
[6]イキイキ夢見人(ゆめみすと)、2005年10月08日(土) 放送、えいこのWeekendグリップC@fe、
http://www.glip.co.jp/htm/big/ctg/radio/20051008.html
[7]リサイクルパーツの基礎知識、NGPホームページ、
http://www.ngp.gr.jp/kiso/kiso_1.html
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事