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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためのクルマ絵本ライブラリー

天の車  

天の車

ここ数年、ゴールデンウィークには古書店めぐりをすることにしている。連休前半は子供たちの学校や幼稚園が休みではないので、私にとっては奴らの拘束を受けない年に数度の休日だからだ。今年も、先日神田古書街に足を伸ばした。神保町に行った際、必ず寄るのが「みわ書房」。神田古書街で唯一の絵本・児童書の古書専門店である。店内では当然クルマ絵本を中心に物色する。棚の下段の奥隅に無造作に山積みされていた書籍を私は見逃さなかった(クルマ絵本は人気がないのか結構無視されている)。偕成社版「幼児のずかん」第1集「じどうしゃ」の3冊セットの完品だ。72年版なので程度はそれなりだが、致命的な破れ書き込みもなくOKレベル。描かれたクルマも適度なヒストリックカーで、絵の描写もなかなか良い。今回の古書めぐりでは、お目当ての理工書やクルマ絵本の掘り出し物はほとんどなかったのだが、この「みわ書房」では、前々から探していた絶版書「寺町三丁目十一番地」(渡辺茂男・作、太田大八・絵、福音館)の函付きで比較的程度のよいものをリーズナブルな値段で入手できたし、今回紹介する「天の車」(上種ミスズ・作、依光 隆・絵、講談社)は、そのタイトルだけで思わず買ってしまったのだけれども、これがなかなか良い買い物であった。

本作はクルマ絵本で括るにはいささか場違いな気もするが、あえて紹介する。内容は古代ヨーロッパを舞台とした児童向けSFファンタジー小説である。はるか太古の昔、ギリシャ神話の主神ゼウスの弟、ポセイドンの領分として与えられた美しい大きな島アトラント(アトランティス)。かの地を収める皇帝アトラスは、強大な軍事力を背景に、他の民族を支配し、世界の覇権を目論む。そのアトラントに支配され、人質となったフリュギア人の豪族の息子、少年シダは、ポセイドンの生贄にされる直前に大祭司を傷つけ逃亡する。逃亡中の彼を助けたのは、イルムール人のネフトウナであった。彼はイルムール王国の少年王リウの叔父で、航海中アトラントの首都に立ち寄っていたのだ。アトラスに追われる身のシダを、彼は母国のイルムールへ連れて帰った。彼らが簡単にアトラントを去ることができたのは、アトラントの北にあるイルムールは、住民が鳥のように空を飛び、不思議な魔法を使う国として畏れられていたからである。また、かつてアトラントとイルムールが戦争をしていた頃、圧倒的に劣勢であったイルムールが「天の車」を使って一気に形勢互角に持ち込んだという伝説が残っていた。シダを取り逃がしたことで憤っていたアトラスは、シダの奪還よりも「天の車」を手にいれることに固執しだす。その目的は誰の目にも明らかだった。思ったことは成就しないと気がすまない皇帝が考えた策略とは・・・。

「天の車」その1

プラトンがその著述「ティマイオス」と「クリティアス」で記述して以来[1]、あのシュリーマンも関心を持っていたといわれる伝説の大陸「アトランティス」を舞台にした、とても児童書とは思えぬ壮大なスペクタル活劇となっている。さらに、古代人は空をも支配していたというSF設定。「天の車」はお察しのとおり、飛行機である。それは空気の流れによって翼の上下に生じる圧力差が生む揚力で浮かぶ現代の飛行理論に基づく機械だった。それでは、何ゆえイルムール人がこのような高度な科学技術の知識を持っていたのか。それが、この壮大な物語のキーとなる。

失われた文明

古代史、特に講談社現代新書の「失われた文明」や「アトランティス大陸の謎」、「ノアの大洪水」などの先史時代(文献史料がまだ存在しない時代)ものは高校生時代によく読んだし、最近では「イリヤッド-入矢堂見聞録-」(東周斎雅楽・作、魚戸おさむ・画、小学館)というアトランティスの歴史ミステリー漫画を夫婦で愛読していた小生は、一気に読み終えてしまった。1971年の第12回講談社児童文学新人賞、および1972年第10回野間児童文芸新人賞の受賞作であるだけあって、読者に夢とロマンを与える舞台設定、読み手をぐいぐい引き付けるテンポの良いストーリー展開となっている。先史時代の話は、史実や物証がほとんどないだけに荒唐無稽だといわれるが、それだけに想像力を掻き立てる題材だ。子供には、ある程度世界史を学び、歴史に関する予備知識を得てから読ませる方がよいかと思う。

ナスカの地上絵
ナスカの地上絵

先史時代の科学技術では自動車ではなく、航空技術がよく語られる。古代インドの神話「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」などには、すでに紀元前何千年もの昔に飛行機があったらしいことがしるされている。古代ギリシャでは、北方に住んでいたヒュペルボレオス人について、彼らが空を飛び回る能力を持っていたという伝説がある。ひょっとすると、このヒュペルボレオス人が本書のイルムール人のモデルかもしれない。また、有名なナスカの地上絵は、人が空を飛んでいないとわからない絵だ[2]。などなど先史時代に人は空を飛んでいたと思わせる伝説や物証が世界各地に存在する。シュリーマンがトロイの遺跡の発見でギリシャ神話が史実であったことを証明したように、世界各地に点在する神話や伝説というものは、史実を伝えている可能性もあるのではないかと空想してしまう。

太陽神ヘリオスと日輪の馬車
太陽神ヘリオスと日輪の馬車

古代のクルマは馬車であり、これは史実として紛れもなく存在した。最初に馬車が発達したのは古代ギリシャの頃で、戦車として用いた二輪の馬車が中心であった。ギリシャ神話で有名なクルマは、太陽神ヘリオスの乗り物である4頭立ての「日輪の馬車」(カドリガ、Quadriga)。ゼウスに仕えたヘリオスは、毎朝、彼のために曙に先導されて、4頭の輝く馬に引かせた火の馬(戦)車で東に現れた。この馬車は太陽神のみしか御することができなかったが、ヘリオスは親心から息子パエートンの願いを叶えてこの馬車に乗せてしまう。主が神でないことがわかった馬たちは、本来走るべき道を外れていく。道を外れた太陽の馬車は天空を焦がし、大地を焼いていく。このことがゼウスの怒りにふれて、雷によって馬車もろともエリダヌス川に落とされた。彼の姿を探し回る友人キュクノスの友情を思い、ヘリオスが彼を天に上げてはくちょう座にしたという星座の由来に関する一説もある [3][4][5]。当時の車といえば、この馬車であった訳だから、天空を舞うこのカドリガはさしずめ「天の車」といえる。しかし「天の車」が、この馬車の形態をとっていないところが、本書が単なるファンタジーではないSFたる所以だ。

作者の上種(かみたね)ミスズさんは1940年生まれ。山口県の宇部学園女子高等学校を卒業後、防府医師会付属看護学院を経て、看護婦生活に入る。シェクリーの短編集を読んでSFの虜となり、本作で1971年の第12回講談社児童文学新人賞、および1972年第10回野間児童文芸新人賞を受賞する。その後、本作の続編らしい「銀河の守護者」全4巻を執筆する。

作画の依光 隆(よりみつ・たかし)さんは、挿絵画家、イラストレーター。1926年、高知県生まれ。出生時は川島隆。依光は結婚後に婿養子となったための妻の姓。大連に渡っていた未来派の詩人の兄・川島豊敏に呼び寄せられ、中学から終戦まで大連で育つ。大連美術学院油絵科卒。帰国後、高村光太郎に師事。共同通信社社会部を経てフリーになる。以降、SFから児童書まで幅広いジャンルの挿絵で活躍。早川文庫SFの「宇宙英雄ローダン」シリーズは、ライフワーク的仕事。『白旗の少女』の挿絵と装幀で1990年度児童福祉文化賞を受賞。現在、「創作集団プロミネンス」会長。

前回のウルトラマンに続いて、少し毛色が変わってきたので、次回からは軌道修正だ。

[参考・引用]
[1]アトランティス、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9
[2]人間は空をとぶことができたか、失われた文明-1万2千年前の世界-、A・ゴルボフスキー・著、中山一郎・訳、講談社現代新書
[3]ヘーリオス、文化が見える・歴史が読める早わかりギリシャ神話、木村 点、日本実業出版社
[4]ヘリオス、図説ギリシャ・ローマ神話文化事典、ルネ・マルタン・監修、松村一男・訳、原書房
[5]はくちょう座、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%8F%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%86%E5%BA%A7


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Posted on 2008/05/02 Fri. 10:22 [edit]

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