のろまなローラー

のろまなローラー

建機絵本の名作であり、私も大好きな作品の一つ「のろまなローラー」(小出正吾・文、山本忠敬・絵、福音館書店 《こどものとも》傑作集)を今回は取り上げる。

主人公“のろまなローラー”は道路の建設現場で路面を圧力で平らに固める機械車両、ロードローラーだ。なのでいつもゆっくり、ゆっくり道路を締め固めている。でこぼこ道を重いローラーで平らにしていると、その横を青いダンプトラックが、ローラー君をしかりながら追い抜いていく。「じゃまだよ、じゃまだよ。どいたり どいたり」

「のろまなローラー」その1

しばらく行くと、今度は黒いりっぱな自動車に、「どいたり どいたり」とからかわれながら追い抜かれる。さらに赤い小型車にも「おさきに しっけい。そのちょうしではひがくれますねえ。」とこばかにされるローラー君。

「のろまなローラー」その2

そんな不遜なやつらを気にもせず、ごろごろ坂道をゆっくり登っていくと、先ほどとおり過ぎた青いトラック、黒い乗用車、赤い小型車がパンクで立ち往生。ローラー君はそんな彼らに「それは ほんとに おきのどく。はやく なおして おいでなさい」と優しい言葉をかける。1965年初版の本書であるが、当時は道も十分舗装されておらず、至る所がこぼこ道であった。特に山道は。その昔60年代後半だったろうか、父と車で出かけた峠のでこぼこ道で大きな釘がささってパンクしたことを思い出す。こんな風景はこの時代当たり前にあった。

「のろまなローラー」その3

ローラー君が汗をかきかき道路をなおしていくと、今度は修理を終えた青いトラック、黒い乗用車、赤い小型車たちが、「きみの おかげで、でこぼこみちが きれいになりますね。ほんとに ありがとう」と皆感謝の言葉を述べて再び追い抜いていく。日も暮れかかり、山の頂上までやってきたローラー君は、平らになった坂道を後戻りして帰っていくというほのぼのとしたストーリーである。

この作品は言葉がなかなか古めかしい。「どいたり どいたり」とはあまり使わない表現であるが、辞書によれば「たり」は終助詞的に軽い命令を表す言葉[1]。なので「どいた、どいた」という意味になる。私の出身である北部九州(博多)では、確かこの場合「どいちゃり(ぃ)」と表現する。つまり「たり」=「ちゃり(ぃ)」であり、少し似通っている。「しっけい(失敬)」も今では死語だなあ。でも、この繰り返し登場する古典的表現が、逆に現代においては文章に新鮮味を与えている。

世の中何事にもスピードが求められる時代である。そんなご時勢だから、少々試考が浅くても、そこそこの結果を早く出した者が評価される時代にもなっている。私はそんな社会の風潮を少し危惧している。自動車一つとっても、昔はじっくり技術を磨いて商品にしていたように思える。少なくともそういう風土をもった会社は存在した。今はどうだ。どのメーカーもモデルチェンジのサイクルはどんどん縮まり、あんなに様々な技術の集合体がわずか3、4年でフルモデルチェンジする。クルマと同様に技術集積度の高い携帯電話に至っては、季節で変わるパリコレの如くである。

時間をかけて技術を煮詰めるのは非効率と非難を受ける。こだわりのある通好みの技術は影を潜め、そこそこの技術達成で世の中に出る。目まぐるしく機能が追加、改変され、古い機能との互換性もすぐに損なわれていく。Ver.1.0、Ver.1.02・・・いったいどこが変わったのやら。その結果が、最近のリコール商品、不良品の多さである。安易な材料、部品の共有化のおかげで、その対象商品は天文学的に膨れ上がった。そんなことを考えながらこの作品を読むと、改めて地味ではあるが、じっくりと腰を据えて取り組む重要さというものを痛感する。急がば回れである。

スピード化はエネルギーや資源の大量消費にもつながるし、この辺で社会全体スローなライフサイクルに変換する時期ではないか。もっとゆるりとしたのろまな社会にはなれないのだろうか。40年以上も前に出版された本とはいえ、どこかで歯車が狂い始めた現代社会への警鐘をいまだに鳴らし続けているようにも思える。

小出正吾
小出正吾

作者の小出正吾は、1897年静岡県に生まれる。1990年没。早稲田大学商学部卒業。1938年(昭和13年)に『太あ坊』で第2回童話作家協会賞を受賞。さらに1940年(昭和15年)に刊行した童話集『白い雀』で注目を集めた。1966年(昭和41年)からは日本児童文学者協会会長に就任した。1975年(昭和50年)に『ジンタの音』で野間児童文芸賞を受賞。小出正吾の童話は、ほのぼのとした暖かい人間愛にあふれ、子供だけが知る喜びや悲しみを生き生きと描いた。春風のような情感を吹き込んでくれるその魅力の第1は、クリスチャンである父母のもとで、幼時から友愛と寛容の心をしつけられてきたこと。第2は、美しい自然に囲まれた静岡・三島で、少年期を過ごしたことがあげられる[2][3]。

「のろまなローラー」その4

作画はお馴染みの山本忠敬。相変わらずリアルな表現の中にも愛嬌のあるキャラクターとしてクルマたちは表現されている。「のろまなローラー」のモデルは不明。ロードローラー製作大手の酒井重工業㈱製のモデルの一つではないだろうか。

’62年型いすゞボンネット トラックTX-552型
’62年型いすゞボンネット トラックTX-552型

青いダンプトラックのモデルは、’62年型いすゞボンネット トラックTX-552型と思われる。詳細は[4]を参照されたい。

三菱コルト1000
三菱コルト1000

黒い乗用車は“りっぱなじどうしゃ”と表現されているので、トヨタのクラウンか日産セドリックあたりの高級車かと思ったが、どうも外観が一致しない。国産車の中でもっとも近いと思われたのが、丸目2灯、デラックスなグリルを擁する63年式三菱コルト1000だ。初版が65年なので年代的にも一致する[5]。発売当時私は1歳。両親に聞いた話によれば、テレビのCMでこの車を覚えたらしく、片言で「むしむしこるとせん」と言っていたようだ。

初代スバル360
初代スバル360

赤い小型車のモデルはまちがいなくスバル360であろう。ただし微妙にフォルムは異なっている。絵本のクルマがボンネットフードの下にグリルを配置しているのに対し、本家はフード内にグリルが配置されている。スバル360の詳細については「スバル360と百瀬晋六」を参照のこと。

[2012.1.27追記]
この記事を読んでいただいたべいと様より、「りっぱなじどうしゃ」のモデルに関する情報提供があった。私と同じ1962年に誕生したシボレー・シェビーⅡ。確かにプロポーション、グリルの感じからして間違いないだろう。

1962 chevrolet chevyII
1962 chevrolet chevyII:http://gazoo.com/meishakan/meisha/shousai.asp?R_ID=3#

当時の感覚からすれば、りっぱなじどうしゃ=外車かもと頭によぎったが、確認できずにいた。
べいと様、ありがとうございました。これですっきり。

あと不明なのは主人公ロードローラーのモデルだけとなったが、酒井重工業のサイトを見ると似たようなモデルが。マカダムローラーKM型とのことだが、微妙に細部が異なるんだよなあ。調査継続。

酒井重工業 マカダムローラーKM型
酒井重工業 マカダムローラーKM型:http://www.sakainet.co.jp/japanese/news/news17.html

[2014.4.16追記]
コメント欄にあるように、真鍋清氏より「りっぱなじどうしゃ」のオペル・レコルト(Record)説が。1963-1965年型のレコルトAが確かにそっくり。特にグリルの形状を比較する限り、上記のシボレーより有力かも。

オペル・レコルトA

[参考・引用]
[1]新明解国語辞典、第二版《小型版》、金田一京助他、三省堂
[2]小出正吾、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%80%85:%E7%B5%B5%E9%9E%A0/%E5%B0%8F%E5%87%BA%E6%AD%A3%E5%90%BE
[3]世界の童話おじさん、三島ゆかりの作家とその作品、三島市ホームページ、
http://www.city.mishima.shizuoka.jp/ipn002048.html
[4]いすゞ・ボンネット トラック、
http://www.asahi-net.or.jp/~rf7k-inue/izen/no-2/isuzu/isuzu.html
[5]商品の歴史1960年代、三菱自動車の概要、三菱自動車ホームページ、
http://www.mitsubishi-motors.co.jp/corporate/aboutus/products/1960/j/index.html

のろまなローラー (こどものとも傑作集 (34))のろまなローラー (こどものとも傑作集 (34))
(1967/01)
小出 正吾、山本 忠敬 他

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ゆっくり走ること

のろまなローラーの記事、大変楽しく読みました。「たり」に関する一考と博多弁の対比は、面白かったです。絵本の中の隠れた方言や古めかしい用法は、出版社や作者も大切にしているものです。お子さんに読むときは、ぜひ博多弁に直して読んでみてください。喜びますよ、きっと。タイヤのパンクに関しても、私も記憶があります。父の古いコロナなどは、よくパンクしていました。細い、ホワイトウォールのタイヤがついていました。
 私の暮らしているオーストラリアでは、古い車がまだ元気でたくさん走っています。古いディーゼルエンジンの車は、ディーゼル燃料の代わりに、廃植物油を入れて走ったりしています。私の友人は、このための燃料変換装置の販売ビジネスと、廃植物油の共同購入生協設立の活動をしています。(主に、レストランからの廃油をまとめ買いする方式)http://www.vegiecars.com/home/ 日本にも植物油の燃料装置を2セット売ったそうです。オーストラリアでは、こうした草の根活動が盛んで、メーカーのビジネスや政府の一方的なビジネスや政策とは離れたところで、いろいろな取り組みが行われています。

 また面白い記事を書いてください。

[ 2008/04/21 09:36 ] [ 編集 ]

Vegie Cars! いいですねえ

故郷を離れて20年。小生の博多弁もすっかりサビつき、本当にこういう表現であったか自信がありません。山口と富山のハーフの博多っ子なので、生粋の博多っ子の旧友に機会があれば確認したいと思います。先日「いちにちにへんとおるバス」(中川正文・文、梶山俊夫・絵、ひかりのくに)という関西弁で書かれたクルマ絵本を2人の子供に「にほんむかしばなし」調で読み聞かせました。もの珍しかったのか、聞き入っていました。絵本の文章の表現、リズムは非常に重要ですね。

Vegie Carsとはオモシロイ。外国の草の根運動は非常にパワーがありますが、日本は規制が多くてダメですね。この国は未だに税金を道路建設(箱物)に投入する/しないで議論が膠着しています。道路特定財源の一般財源化も結局何に使われるのかわからないし。道路を含めた交通全体の様々な環境負荷低減策に税金を活用しようという論議には至りません。日本には大局的に物を見られる人が少なく、本当にこの国は大丈夫なのかと危機感が募ります。オーストラリアからみて日本はどう映っていますか?
[ 2008/04/21 21:49 ] [ 編集 ]

小生も何を隠そう、幼時に同童話を穴が開くほど読みました―1970年代半ばの幼稚園時代のことです。
さて同作品「のろまなローラー」の登場人物いや登場車の中で二番目に登場する黒塗りの乗用車ですが小生の印象ではずっと「1963年型オペルレコードB/1700L」と言う印象を受けて来ました。他の方が言われているシボレーノバと比べて、ボディラインがぐっとスリムでウエストラインも低めであるのみならず、ヘッドライトのステイがフロントグリルとの間に段差なく収められ一直線にまとまっている点からそう見えてならないのです。
各登場人物=登場車両のキャラクターが明確に描かれていることもさることながら、「地味でも自分の立脚点を見失わず、性急でなくシコシコと努力する者は認められる」と言う人間社会の原理を「乗り物キャラに感情移入させつつ」子どもたちに実感させると言う点では絵本の王道を行っているのではないでしょうか。
昨今の効率主義やら、社会の複雑化など「IT革命」が生み出した功罪の中で、「素早さ・小狡さ」が大手を振ってまかり通る世の中とあっては同作品は日本社会が健全だった「昭和の良き時代」を今に語り継ぐのと同時に、「人間とは、社会構造とはどうあるべきか?」と言う示唆さえも感じさせてくれ、作者の手腕には最敬礼してもし過ぎることはないと思います。
かく言う私め、実生活では所有車の一台=レクサスIS350(3500cc)のハンドルを握るや無意識のうちに作品中の「大きな乗用車」キャラが出て大なり小なり「傍若無人」の色が見え隠れする(周囲の談)一方で、メインの足たるヴィッツ1300U-L/2004年式に乗れば「小型車」キャラ的なせっかちでどこか品に欠ける運転マナーが出る傾向にある点、良くも悪くも「乗り物絵本」の功罪なのでしょうかね!?
[ 2014/04/12 02:45 ] [ 編集 ]

効率主義

真鍋様、
熱きコメント、ありがとうございます。
「りっぱなじどうしゃ」のオペル・レコルト(Rekord)説、説得力があります。1963年だとA型ですかね。おっしゃるとおり、特にグリルの感じが似ています。リアコンビの絵があれば特定できたと思うのですが、こればっかりは作者に聞くしか正解は出ないでしょう。でも貴重な情報ありがとうございました。
この記事を書いたときにも効率主義の危うさについて述べましたが、自動車のリコールも減るどころか、どんどん増え続けている昨今です。これも効率主義の”罪”といえましょう。
理研の小保方騒動も、成果を急ぐばかりに十分な検証を欠いた結果とも思えます。
これらの現状を考えると、本書は半世紀以上も前に書かれたにも関らず(初版は1960年!)、未来の我々に警鐘を鳴らした作品だったと思えてきます。貴殿の言われるように作者の手腕に脱帽。
私もついついアクセルを踏み過ぎることがあります。脱スピードを心がけようと思うのですが...。日々反省です。
[ 2014/04/12 17:34 ] [ 編集 ]

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