うちのじどうしゃ

うちのじどうしゃ92年版

前回商用車の話がでたので、今回は商用車の登場する絵本『うちのじどうしゃ』(谷川俊太郎・文、太田大八・絵、福音館書店)を紹介する。この本は1978年に「年少版こどものとも」通巻20号として初版が出版された後、1992年に再販されている。面白いのは、普通絵本の再販というと内容は全く同じ場合が多いが、この再販本は初版と画風が全く異なる新しい書下ろしという点だ。内容も若干変更・加筆されている。

うちのじどうしゃ78年版

「うちのじどうしゃ」78年版その1
「うちのじどうしゃ」78年版より

主人公の少年(年長さんくらいであろうか)とその家族は、商売をやっているお父さんのくるまで今日は田舎にお出かけだ。お父さんの営むお店は、初版本では「フタバ塗装店」、再販本では「カモメクリーニング店」と異なっている。両親と少年、妹と白い犬という家族構成は同じであるが、初版本では少年の妹が赤ちゃんなのに対し、再販本では年少さんくらいの少女に描かれている。

「うちのじどうしゃ」92年版その1
「うちのじどうしゃ」92年版より

旅の途中の山道でバイクの事故現場に遭遇。救急車が出動中のため、代わりにケガ人を病院へ搬送して人助け。1BOXのワゴン車の本領を発揮する。すっかり遅くなってしまった少年の家族は、海辺で野宿をすることになった。翌日、フェリーに乗って、少年のおばあちゃんの待つ田舎へ到着。旧版では田舎はどこかの小さな島とだけしかわからなかったが、新版の挿絵の情報から、瀬戸内に浮かぶ香川県女木島(通称鬼ヶ島)であることがわかる。

「うちのじどうしゃ」92年版その2

再販本に追加されているシーンは2箇所。少年の住む町を通り過ぎる際に、外国へ輸出する左ハンドル車を運ぶカーキャリアと併走するシーン。それとフェリー乗り場へ向かう道すがら、廃車置場の横を通るシーン。「ぼくのミニカーはすてないよ、せかいでいちだいきりだもん。」再販された92年というとバブル景気終焉のころ。この2つの場面は、モノを大量に売り、使い捨てる時代に対するメッセージとして追加されたように思える。

「うちのじどうしゃ」92年版その3

作者らは、物質に溢れかえる当時の日本の姿に対峙した形で、古い良き日本の原風景としての自然や田舎の貴重さを改めて表現したかったのではないか。晩御飯のシーンでの海辺の夕日の美しさ。野営シーンでの星空の美しさ。そして、海を望むおばあちゃんの家からみたのどかな畑の風景。構図としては初版本の方がペン画と水彩でリアルに表現されているが、谷内六郎にも似た太田画伯の描くこれらの風景は、初版よりも明らかに生き生きと感じられる。二作品を読み比べると、再販版でわざわざ画風を変え、場面を追加した意図が、私にはこんな風に読み取れて面白い。

谷川俊太郎
谷川俊太郎
出典:http://www.city.ogaki.lg.jp

作者の谷川俊太郎さんは、あまりにも有名な現代を代表する詩人、文筆家。絵本の翻訳も多数ある。1931年生まれ。東京出身。父は哲学者・評論家の谷川徹三(1895-1989)、長男はピアニスト/作・編曲家の谷川賢作(1960-、http://www.taniken.net/)。絵本作家、エッセイストの佐野洋子は元妻。17歳頃から詩を書き始め、1952年、21歳のとき処女詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。詩だけでなく、絵本、童話、作詞(『鉄腕アトム』アニメ主題歌、1962年レコード大賞作詞賞受賞作『月火水木金土日のうた』など)、ラジオドラマなどにも携わる[1]。

太田大八
太田大八

挿絵の太田大八さんは、1918年生まれ。幼少期を長崎県で過ごし、小学4年生の時に東京に移る。多摩帝国美術学校(現在の多摩美術大学)図案科卒業。幼児雑誌や書籍のさし絵を手がける。1955年日本童画家賞、1959年小学館絵画賞、1969年国際アンデルセン賞国内賞、1979年国際アンデルセン賞大賞次席など、数多くの賞を受賞。オーソドックスな油絵の画法を使ったものや民画風のものなど画風は多彩。東京都在住[2]。確かに[2]を見る限り、様々な画風を持つ作家のようだ。本作の2作品も、一見すると違う作家が描いた挿絵のように思える。時代によって画家が画風を変えることはよくあることだが、パッと見の印象が作品によってここまで異なる作家は珍しいのではないだろうか。

調べてみると、このコンビによるお仕事は絵本のみならず非常に多い。お二方が子ども・絵本・人生を語る対談集『詩人と絵描き ~子ども・絵本・人生をかたる~』(谷川 俊太郎、太田 大八 ・著、山田 馨・編集、講談社)もその一冊。人生を積み重ねられたダンディなお二人が一体何を語り合っているのだろう。本作と合せて読んでみたい。



[参考・引用]
[1]谷川俊太郎、はてなダイアリー、
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%AB%C0%EE%BD%D3%C2%C0%CF%BA
[2]太田大八、
http://www.medialynx.co.jp/artists/ohta_daihachi/index.html
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