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「ダットさん」のクライスラーな悪役たち  

プリムス・ロードランナー・スーパーバード

絵本「ダットさん」に登場する名脇役、エスハチくん、ヨタハチくん、エヌコロくんのモデルであるホンダS800、トヨタ・スポーツ800、ホンダN360も日本の自動車史の中では重要なクルマであるが、これらの紹介は別の機会に譲ることにする。今回はこの本に登場するアメリカンな悪役に焦点を当てる。ginさんの情報により、車の誘拐犯一味『つきぼしだん』の三つ目のトラックはダッジ(DODGE)のトラック、また、その仲間のでかいリアウイングを持つストックカーは、プリムス・ロードランナー・スーパーバードであることが判明した。

日本車がヒーローでアメリカ車が悪役なんて、昔のプロレスみたいだが、アメ車が暴れまわる姿は、横須賀ならではである。今でこそ米兵さんは日本車を乗り回しているが、「1970年代横浜・横須賀外車ストリート」(高木紀男・著、二玄社)によれば70年代までのヨコスカの街はアメ車の宝庫であったようである。

ストリップ・ウェザーズ(キング)
ストリップ・ウェザーズ(キング)(映画「カーズ」より)

で、まずプリムス・ロードランナー・スーパーバード(Plymouth Road Runner Superbird)を調べてみた。この容姿、どこかで見たことがあると思っていたら、映画「カーズ」で登場する“キング”である。常に冷静沈着、独りよがりだった主人公マックイーンにも暖かい助言を与える、まさに心技体の備わったレースの王者を演じている。そのモデルとなったロードランナー・スーパーバードは市販車のプリマス・ロードランナーを改造した、その長いノーズ(ベースのRoadrunner より19インチ長い全長218インチ=5,537mm)と、馬鹿でかいテールフィンに取り付けられたリア・スポイラー(トランク上面から24インチ=610mmの高さ)が特徴的であるが、NASCARレースのために開発され、風洞とコンピューター解析を使って空力的に設計されたアメリカの最初の車だったそうだ。姉妹車に、1969年夏にデビューしたダッジ・チャージャー・デイトナ(Dodge Charger Daytona)がある。

Richard Petty
Richard Petty

1968年秋に、プリムスのNASCARレーシングチームからフォード・チームに移籍したリチャード・ぺティ(Richard Petty 、NASCARレースで通算200勝、7度優勝している“キング”と呼ばれた伝説のレーサー)を連れ戻すために開発されたスーパーバードは1970年にデビュー。そう、映画「カーズ」のキングはこのぺティがモデルである。ゼッケン43番、ペティブルーといわれる水色のマシンは彼のトレードマーク。しかも、映画のクレジットを見ればわかるがオリジナル版のキングの声優は、このぺティ本人なのである。ストックカーレースの盛んなアメリカでは超有名人である。このマシンとぺティの活躍により、’70年のシーズンはプリムスが8勝を上げている。(ペティブルーのスーパーバードは、現在ノースカロライナ州Randlemanにあるリチャード・ぺティ博物館に展示されている。)

Richard Petty's Road Runner Superbird
Richard Petty's Road Runner Superbird

’70年はNASCARのホモロゲーション(公認レースに出場する車両に課せられる厳格な規定)にとって重要な年であった。競技に参加する出走車両は、市販車として利用可能でそれなりの数が販売されていなければならないという規定がある。’70年には最低生産台数が、それまでの500台から、全米の販売店(ディーラー)数の半分という厳しい条件へ変更された。プリムスの販売店は当時3,840店舗あったので、スーパーバードにとってそれは1,920台の生産を意味したのであったが、なんとかクリアできた。

もちろんエンジンも市販されていなければならないが3種類ある。エンジンモデルと生産台数は、標準の4バレル(※)・キャブレターのV型8気筒440エンジン(375馬力)が1,162台、と6バレル仕様の440エンジン(390馬力)が665台、、それに426Hemiエンジン(425馬力)が93台で計1,920台である。2,000台弱とはいえ、こんなモンスターカーが公道を普通に走っていたとはアメリカ恐るべしだ。

Rpad Runnerのデカール Road Runner
Road Runner

市販車の巨大なテールフィンの側面には、大衆受けを狙ってワーナーのアニメのキャラクターで有名な“Road Runner”のデカール(シール)が施されている。私も幼少の頃、TVで観ていた覚えがあるのだが、この鳥、「ビーッ、ビーッ」と言う特徴的な鳴き声を出しながら、猛烈なスピードで走り去る。実際にスーパーバードのホーンの音もこの鳴き声を真似ているそうである。この独特なスタイリングも含め、“Road Runner”のデカール、ホーン音には当時賛否両論があったようだ。それにしても、漫画に縁のあるスーパーバードである。それだけアメリカ人には愛され続けた、親しみのあるクルマなのだろう。

1971年にはいわゆる“エアロカー”に、排気量5ℓ以下もしくは重量増の制限を加えるレギュレーション変更があった。時速200マイル(321.9km)越えに安全上の問題があったからである(こんなお化けクルマが公道をも走れるので当然といえば当然)。'70年スーパーバードも規定は満たすものの、より小さいエンジンに積み替えるか、重量を増加しなければならず、馬力の損失が大きすぎてレースの勝ち目はなくなってしまった。スーパーバードも71年モデルが再設計されたが、レースに出ることはなかった。’60年代後半に盛り上がったNASCARにおけるスピードレースも、これを機に減速していく。結局、スーパーバードは1970年のわずか1年間に約2,000台だけ造られたレアなモデルとなった。

Dodge Pickup Truck D100
Dodge Pickup Truck D100

一方、三つ目のダッジ・トラックであるが、いろいろ調べてみたが、つり目のダッジ・トラックは見つけられなかった。 [7][8]によればSweptline Dシリーズといわれたピックアップ・トラックのモデルが’61年から’71年に製造されている。Dシリーズはその外観から’61~’65年中期、’65年後期~’67年、’68~’71年の大きく3種類に分類される。’61年~モデルは横置き二つ目のヘッドライトの下にウィンカーライト一灯の三つ目配置、’65年以降は一つ目ヘッドライトの内側にウィンカーライト一灯の配置となっているので、この三つ目トラックは、’61~’65年中期モデルに最も近いがつり目ではない。つり目にしたのは『つきぼしだん』の恐ろしさを演出するためにデフォルメされたと思われる。’61~’65年中期モデルも、そのグリル形状から’61年式と’62~’65年式の2種類に分けられる。前者のグリルはアルミ製でメッシュが細かく、後者は鉄製のプレス打ち出しのグリルに変更され、センターに“Dodge”のバッジが追加されている。絵本に描かれた“誘拐”トラックのグリル形状は’62~’65年式と同じであるが、センターにブランドバッジは施されていない。

「ダットさん」一部

プリムスもダッジも米国クライスラー社のブランド名であり、2002年のブランド戦略の見直しによりプリムスの名前は消滅した。ご存知のように、ダイムラーと一緒になったクライスラーも相手から一方的に三下り半を突きつけられ、先日、日産と業務提携を結ぶことが決まったと報道があったばかりである。ダットさん(日産)の敵役がこれまたクライスラーとは現実の企業動向と比較すると面白い。

(※)キャブレター(気化器)は、吸気する穴(ボア)の数で、~バレルと呼ばれる。

[参考・引用]
[1]Plymouth Road Runner Superbird、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Plymouth_Superbird
[2]Plymouth Road Runner Superbird、ultimatecarpage.com、
http://www.ultimatecarpage.com/car/901/Plymouth-Road-Runner-Superbird.html
[3]1970 Plymouth Road Runner Superbird、
http://musclecars.howstuffworks.com/classic-muscle-cars/1970-plymouth-road-runner-superbird.htm
[4]1970 Plymouth Road Runner Superbird、Conceptcar.com、
http://www.conceptcarz.com/vehicle/z741/default.aspx
[5]アメリカ車の100年 1893-1993、ニック・ジョルガノ・著、ニッキー・ライト・写真、原 伸介・訳、二玄社、p220-223
[6]Richard Petty、Wikipedia、
http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Petty
[7]Sweptline.com、The ‘61-‘71Dodge Truck Website、
http://www.sweptline.com/hist/61-64.html
[8]Dodge D-Series(D100,D200,D300) 1961-1971 / ダッジ・D、アメ車ブログ アメリカンカーウェブカタログ、
http://ameblo.jp/amesya/entry-10020295727.html
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Posted on 2008/01/29 Tue. 20:27 [edit]

category: cars/車のお勉強

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コメント

はじめまして。
子供が「みつめのトラックのホンモノが見たい!」
と言い出して、とても助かった、2児(男)の母です。

長男(5才)がさらに「なんでパトカーのライトがついてるの?」
と聞いてきました。
もし、何か、お考えがありましたら、教えて下さい。

URL | らちとライオン #-
2009/01/30 12:35 | edit

みつめのトラック

ようこそ、らちとライオンさん。
お役に立てて何よりです。「みつめのトラックのホンモノが見たい!」とは、これまた難題でしたね。写真で見ることはできますが、日本国内で実物を見るのはちょっと難しいでしょう。でも子どもって、特に男の子はトラックが好きですね。
ところでご質問の「なんでパトカーのライトがついてるの?」が、まだよく理解できていないのですが、もう少し詳しいお話をいただけると幸いです。

URL | papayoyo #-
2009/01/30 22:14 | edit

絵本には、実物にはないパトライトがついています。
屋根に小さな「ぽっち」が見えますよね。

他のページを見ると、はっきりわかるのですが
本人は、「悪者なのに、なんでパトカーと同じものが
ついているのか。」不思議なのだと思います。

父親は、「進駐軍のトラックをモデルにでもしたのかな~?」
と言っていましたが、そうなのでしょうか?

URL | らちとライオン #-
2009/01/31 12:19 | edit

パトライト

理解しました。確かにパトライトが付いていますね。ご主人のおっしゃるように進駐軍のSP車両の払い下げか、以下リンク先の画像にあるように元々レッカー車のような設定だったのかもしれません。「ダットさん」は横須賀が舞台なので、前者の方が可能性が高いと思います。でも、悪者にパトライトが付いていると、お子さんも混乱しますよね。
「ホンモノが見たい!」ということでしたが、リンク先の画像はマッチボックス社(Matchbox)のミニカー、ダッジのレッカートラック(Dodge Wreck Truck)です。ヤフオクでも時々出ているので、これを「ホンモノ」の代わりにする手もあります。パトライトも付いていますし。

http://www.shabbir.com/pictures/mbpictures/mb13dodgewreck.jpg

URL | papayoyo #-
2009/01/31 18:35 | edit

早速の回答、ありがとうございました。
レッカー車にパトライトがついていたのには、驚きました。

実は、我が家は電車オタクなのですが、これを機に車に
転向しそうな気配です。

これからも、親子共々、楽しく拝見させて頂きます。

URL | らちとライオン #-
2009/01/31 19:30 | edit

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