ダットサン・フェアレディ2000(SR311)

前回「ダットさん」の主人公のモデルは、ダットサン・フェアレディS310系である。ダットサンとはご存知のように、日産自動車のブランド名であり、海外での日本車トップブランド名として確立、特に米国では「ダッツン(DATSUN)」の名で親しまれていた。しかし、1983年にグローバルなブランド名「ニッサン」への統一(※)で、「ダッツン」ブランドは姿を消す。

(※)現在は高級車ブランド「インフィニティ」も持つ。

先日の報道にあったように、松下電器産業が創業者「松下」の名前を捨て、グローバルで浸透している「パナソニック」ブランドに統一するのとは真逆の戦略である(松下電工までもパナソニック電工になるというのは、ちょっと違和感があるのだが)。約20年前、私が米国に初めて出張した際のこと。当時私は米国でも人気のあった日産テラノ(米国名パスファインダー)に乗っていた。タクシーの運転手と自動車の話になったとき、“ニッサン”に乗っているといっても全く通じない。はっと思って“ダッツン”と言いなおして初めて理解してもらえた(断っておくが、私の発音が悪かった訳ではない)。こんなにアメリカの地で親しまれていた名前を日産は消した。そんな逸話にその後凋落する日産の企業戦略のなさを感じたものだ[1][2]。

ダット号(1914)
ダット号(1914)

ちなみに“DATSUN”の由来はかなり複雑だ。後に日産コンツェルンに吸収される快進社自働車工場(後のダット自動車製造)の出資メンバーだった田健治郎の「D」、青山禄朗の「A」、竹内明太郎の「T」と、それぞれの頭文字を採り、早く走るという意味の「脱兎」とかけて、大正3年(1914年)「ダット号」は生まれた。絵本「ダットさん」では不思議な呪文「ルネントマパッオ」を唱えた「ダットさん」が兎のごとく跳んでいくシーンがあるが、これは「DAT」の由来を汲んで描かれたものではないのだろうか。

「ダットサン」1号(1932)
「ダットサン」1号(1932)

そして1931年、新会社となったダット自動車製造から生まれた量産車は、ダット号の息子と言う意味で「DATSON(ダットソン)」という名で販売される。しかし翌32年、「ソン」が損を意味するのを嫌い、「DATSUN(太陽)」に名前を変え、ここにようやくダットサンのブランドが誕生することになる。1933年、ダット自動車は石川島自動車製作所に吸収合併され、東京自動車工業(後のいすゞ自動車)となる。同年、国産の小型自動車の量産化を目指していた鮎川義介(日産自動車の創設者)の嘆願で、当時社長であった戸畑鋳物へ、東京自動車工業から無償でダットの製造権が譲渡される。その後戸畑鋳物は自動車製造、そして現在の日産自動車へと社名が変わり、「ダットサン」は日産のブランドとなった[3][4][5][6]。ダットサン=日産のイメージがあったのだが、こうして歴史を紐解くと、日産とダットサンはなんの関係もないことがわかる。簡単にブランド名を捨てられたのもわからないでもない。

フェアレデー1200
フェアレデー1200

さて、その米国で今でも人気のスポーツカーとしてのブランドを確立している「日産フェアレディZ」、通称Z(ズィー)・カーであるが、その礎を築いたともいえるのが、このダットサン・フェアレディS310系である。その原型となるのは、1957年の自動車展示会で発表された「ダットサン・スポーツ1000」(S211型)である。これは国内専用の排気量1000ccのオープンカーで、1959年にわずか20台を生産したのみ。本格的に北米専用として投入されるのは1960年、排気量1200cc、48馬力となったSPL212型からである。このときに初めて「フェアレディ」の名前を冠することになる。とはいっても、最初は「フェアレデー1200」という年寄りの英語発音のようなモデル名であった。「フェアレディ」の名前は、当時の川又社長が米国で観て感銘を受けたミュージカル「マイ・フェアレディ」にちなんでだそうである[7]。なんとも安直な由来だったのだ。

日産フェアレディZ(S30)
日産フェアレディZ(S30)

そしてZカーの源流、「ダットさん」のモデルS310系が1961年の東京モータショーで「ダットサン・フェアレディ1500」として登場する(ここで現在のフェアレディの表記となる)。翌年、私の生まれた1962年に小径ホイール、低床フレームの採用で低重心化を図った排気量1500cc、71馬力のモデル(国内仕様はSP310型、北米仕様SPL310型)が市場投入される。最初は3シーターで横向きの後部座席が備わっていたが、1964年のマイナーチェンジで2シーターとなる。1965年には排気量1600cc、90馬力のモデル「ダットサン・フェアレディ1600」(国内仕様はSP311型、北米仕様SPL311型)が投入される。1967年にはよりスポーティなモデルとして、「ダットサン・フェアレディ2000」(国内仕様はSR311型、北米仕様SRL311型)が発売される。排気量2000cc、145馬力のこのクルマは、国内初の200km/hオーバー車であり、第4回及び第5回日本グランプリGTクラスにおいて、2年連続1-2-3フィニッシュを飾る。この我が国初の本格的スポーツカーS310系は1970年に生産終了となったが、そのスピリットは1969年から発売された「日産フェアレディZ」(S30型)に引き継がれ、米国にてダットサン・ブランドの人気を不動のものとすることになる[7][8][9]。

その後、Zcarは一時生産中止の時期はあったものの、2002年ゴーン社長の肝いりで復活した現在のZ33型まで継承されている。ダットサン・スポーツからZまでのモデルの変遷を整理すると、
・1957年「ダットサン・スポーツ1000」 S212型
・1960年「ダットサン・フェアレデー1200」 SPL212型→SPL 213型
・1962年「ダットサン・フェアレディ1500」 SP310型、SPL310型
・1965年「ダットサン・フェアレディ1600」 SP311型、SPL311型
・1967年「ダットサン・フェアレディ2000」 SR311型、SPL311型
・1969年「日産・フェアレディZ」 S30型・・・初代Z、クローズドボディ採用、Zのブランドを確立
・1978年 S130型
・1983年 Z31型・・・「ダットサン」ブランド消滅、「ニッサン」ブランドに統一
・1989年 Z32型
・2000年~2002年・・・生産中止
・2002年 Z33型現行

ダットサン・フェアレディ1600(SP311)
ダットサン・フェアレディ1600(SP311)

クルマ絵本「ダットさん」のモデルはSP310型かSP311型か、はたまたSR311型であろうか。この3モデル、外観上の違いはほとんどわからない。SP型とSR型の違いは、ラジエータグリルのDマークである。ダットサンのDのエンブレムがSR型には付いている。したがって、「ダットさん」はフェアレディS310系の頂点、60年代の日本最速のスポーツカー「ダットサン・フェアレディ2000」 SR311型がモデルという結論に達した。

個人的な意見としては、絵本のモデルにしてもらえるなんて、ミニカーやプラモデルにしてもらえるのと同じくらい名誉なことだと思うのだけど、日産車が主人公の絵本が「ダットさん」とは日産関係者も複雑だろうなあ。

[参考・引用]
[1]ブランド戦略、
http://www.h7.dion.ne.jp/~shindan/backto17.html
[2]ダサイと嫌われたダットサン、名(迷)車列伝ダットサン、車屋四六、
http://www.auto-g.jp/news/200606/03/topics03/index.html
[3]ダットサン、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B5%E3%83%B3
[4]ダットをローマ字で書けばDAT、それは3人の頭文字、名(迷)車列伝ダットソン、車屋四六、
http://www.auto-g.jp/news/200605/20/topics01/index.html
[5]小型ではあるが高級車と同じだと威張っていた、名(迷)車列伝ダットソン、車屋四六、
http://www.auto-g.jp/news/200605/27/topics02/index.html
[6]日産の歩み DAT号からDATSUNへ 日本自動車産業の父「ゴルハム」と「橋本増次郎」、
http://u14sss22ltd.fc2web.com/datsun1.html
[7]ダットサン・フェアレディ、Wikipedia、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%94%A3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%87%E3%82%A3
[8]SR311 スーパースポーツへの加速、フェアレディ・ストーリー、日産自動車ホームページ、
http://www.nissan.co.jp/COMPASS/GALLERY/FAIRLADY-STORY/SR311/index.htm
[9]フェアレディの歴史、日産フェアレディ・ファンサイト、The ZZZing netowork、
http://www.zzzing.net/index_02.htm
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コメント

  1. ダッツン、懐かしいですね

    ダッツン、懐かしいです。
    やっぱりイメージとしては240Zのサファリ。

    エリア88なんかにも出ていましたね。
    「ダッツンは、Zカーは来ているか?」
    なんてしびれました。

    SP/SR311系のフェアレディてのは実体験がなくてアレですけれども、見るとやっぱりすてきだなぁ、と思ってしまいます。

    ( 10:49 )

  2. papayoyo | -

    フェアレディ

    delta16vさん、どうもです。三浦半島は大雪で大変でした。
    日産スポーツといえば、スカイラインとこのフェアレディですが、私はどちらかといえばフェアレディ党です。現行Z33も好きな車ですが、やはりフェアレディというと240Zですかね。SP/SR系も捨てがたい。60-70年代のクルマって、洋の東西を問わず、どうしてあんなに存在感があるのでしょう。絵にしたくなるのも頷けます。

    ( 22:27 )

  3. haruku | -

    息子が大好きな絵本なのですが、ダットさんの正体がわかって、とっても喜んでいました。ありがとうございます!

    ダットさんのナンバーが311になっているので、311型なんだろうとは思っていたのですが、2種類あったのですね。

    悪者に捕まっていた車たちも、あれじゃないかこれじゃないかと息子と話しています。
    2000GTとか、カウンタックとかいますよねー??

    ( 13:00 )

  4. papayoyo | -

    Re: タイトルなし

    haruku様、
    コメントありがとうございます。
    ダットさんの正体がわかってよかったですね。
    僕もZCarといえばS30世代ですが、この311もイカしてます。
    マツダもロードスター復活しましたが、
    やはりスポーツカーの原点は小型オープンですよね。
    この絵本はスゴイです。
    子どもからエンスーの大人までを虜にしてしまう。
    > 2000GTとか、カウンタックとかいますよねー??
    いますよ、います。
    旧車名車のオンパレードです。

    ( 17:10 )

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